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『枯れ葉』木の葉のセレナーデ

© Sputnik Photo: Malla Hukkanen

『枯れ葉』木の葉のセレナーデ

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『枯れ葉』あらすじ

主人公は、孤独さを抱えながら生きる女と男。ヘルシンキの街で、アンサは理不尽な理由から仕事を失い、ホラッパは酒に溺れながらもどうにか工事現場で働いている。ある夜、ふたりはカラオケバーで出会い、互いの名前も知らないまま惹かれ合う。だが、不運な偶然と現実の過酷さが、彼らをささやかな幸福から遠ざける。果たしてふたりは、無事に再会を果たし想いを通じ合わせることができるのか?


Index


ウインクという灯火



 人生が上手くいかないとき、どのように振る舞うか?アキ・カウリスマキ監督の描く愛すべきキャラクターたちは、身近な誰かが最悪な事態に陥っているときに見放すことはない。窮地にいるとき、どこからともなく、そっと連帯の手が差し伸ばされる。どうにか一日をやり過ごすための連帯。この悲惨な瞬間をやり過ごすために必要な連帯。たとえ大きな運動に発展することのない無力な連帯、抵抗であっても、そこには今日や明日を生き抜くための切実さがある。そこには労働者階級同士の思いやりがあると共に、まず人としてのプライドがある。そしてプライドとは品性のことでもある。


 人生が上手くいっているとき、大抵の人はいい人でいることができる。あるいはいい人を演じることができる。しかし人生が上手くいかないとき、余裕がなくなったときにこそ、その人の本当の姿は現れる。



『枯れ葉』© Sputnik Photo: Malla Hukkanen


 何もかもが上手くいかないときに、果たして人はどのような高潔さやプライドを示すことができるのか?アキ・カウリスマキは、都市から追いやられた人々の孤独な生活を一貫して映画に描いてきた。そこにはどんなに最悪なときを過ごしていても、人々の心の内に生まれる灯火を記録しようとする強固な姿勢がある。たとえ敗北の灯火になってしまったとしても。サンドブラスト、製紙工場、病院の清掃業などで働いていた経歴を持つアキ・カウリスマキは、常に労働者の側に立っている。そして『枯れ葉』(23)には、“忘れるな!”と言わんばかりに、人々の心の中に灯火が生まれる瞬間がフィルムに焼き付けられている。81分という簡潔な時間の中に!


 小津安二郎監督や成瀬巳喜男監督の名作のようなタイトルがつけられた『枯れ葉』は、アキ・カウリスマキによる至芸の作品だ。かつてアキ・カウリスマキは、世界中の映画作家が小津安二郎を語った『小津と語る』(93)の中で、次のような言葉を残している。「あなたのレベルに到達できないことを納得するまでは、死んでも死にきれません」


 本作が纏っている名作のオーラ、そして最小限の動きで最大限のエモーションを引き出していく表現力の豊かさには、小津安二郎の“芸”の域に近づいているような感慨さえ覚えてしまう。フィンランドの映画作家であり、同時に世界映画地図のどこにも属さないアウトサイダーであり続けているアキ・カウリスマキ。ヒロインのアンサ(アルマ・ポウスティ)が披露するウインクのように、本作はどこまでもチャーミングな魅力を放っている。ウインクという灯火。彼女のウインクこそが、この世界、この時代を生き抜くための灯火なのかもしれない。




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