2024.01.16
ミュージカルの伝統と大胆な振付
『ダーティ・ダンシング』の振付を手掛けたのは、ケニー・オルテガ。本作の前に『ザナドゥ』(80)にも振付で参加している。『ザナドゥ』にはジーン・ケリーが出演しており、オルテガはミュージカル映画のレジェンドから数多くのことを学んだと察せられる。『ダーティ・ダンシング』の振付で最も有名なのは、ジョニーに向かって駆け寄ったベイビーが大きくジャンプし、彼の頭上に両手でリフトされ、ぴたりと静止する動き。これを湖の中で猛特訓するシーンは、本作の見どころとして語り継がれている。
さらにジョニーとベイビーが沢に架けられた細い丸太の上でステップを踏むなど、かなり奇抜な振付もあるが、このあたりは『掠奪された七人の花嫁』(54)の名シーンを連想させ、オルテガによるミュージカル名作へのオマージュとも受け取れる。ジョニー役のパトリック・スウェイジはスタントに頼らず、この危険なダンスに挑戦。何度も丸太から落下したという。
『ダーティ・ダンシング』(c)Photofest / Getty Images
ケニー・オルテガの振付は、基本的に大胆でセクシーさを強調しつつ、観る者のテンションを上げるショーマンシップに溢れており、その才能は、監督作の『ハイスクール・ミュージカル』(06)や『マイケル・ジャクソン THIS IS IT』(09)、さらにスーパーボウルやオリンピック、アカデミー賞授賞式などでの振付に受け継がれていく。アメリカのショービジネスを代表する振付家、その原点が『ダーティ・ダンシング』と言っていいだろう。
監督には、本作以前に、名ダンサーが子供たちにダンスを教えるドキュメンタリーを撮り、アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞していたエミール・アルドリーノが抜擢された。長編劇映画は『ダーティ・ダンシング』が1作目だったアルドリーノはその後、『天使にラブ・ソングを…』(92)も監督し、大ヒットさせたが、1993年、50歳の若さでエイズの合併症によってこの世を去る。