2024.01.16
わずかな製作費で、異例のヒット&セールスを記録
キャストでもう一人言及したいのが、ジョニーのダンスパートナー、ペニー役を演じたシンシア・ローズ。『フラッシュダンス』では主人公のダンサー仲間、ティナを演じ、『ステイン・アライブ』ではジョン・トラヴォルタの相手役、つまりヒロインを演じ、当然ながらダイナミックなダンスも披露している。『ザナドゥ』でも小さな役ながらダンサーとして出演。『ダーティ・ダンシング』も含め、ローズは1980年代にブームを作ったダンス映画に欠かせない存在だったのだ。ちなみに1982年のTOTOの代表曲「ロザーナ」のMVには、ローズがメインのダンサーで出演。パトリック・スウェイジも男性ダンサーの一人として登場している。90年代に入り、ローズは母親業への専念を決め、事実上の引退となった。
そのシンシア・ローズが演じたペニーに妊娠が発覚し、中絶を決意するエピソードが『ダーティ・ダンシング』でも、ひとつの核になっている。しかし青春ダンス映画に中絶問題が絡んだ脚本に、メジャースタジオは興味を示さなかった。脚本家のバーグスタインも、だからと言って中絶のパートを外すことは考えず、結果的に製作を請け負ったのが、ビデオ配給会社のベストロン。本作が同社初の自社製作となった流れは、 Netflix配信の「ボクらを作った映画たち」に詳しい。
『ダーティ・ダンシング』(c)Photofest / Getty Images
『ダーティ・ダンシング』の製作費は600万ドル。それに対してアメリカ公開時の興行収入は6,281万ドルと10倍もの数字を記録し、年間16位の大ヒット。世界では2億1,395万ドルを稼いだ。映画ビデオソフトとして初の100万本セールスとなり、アメリカでは1988年のレンタルビデオで1位という人気だった。しかし『ダーティ・ダンシング』にあやかって、映画製作に乗り出したベストロンは失敗作を連発し、1991年に倒産してしまう。
『ダーディ・ダンシング』は、新たなシーン(劇場公開ではレイティングのためにラブシーンがカットされた)が収録されるDVDも発売され、さらにファンを増やしていった。もちろん続編やリメイクの企画も何度か浮上する。2004年には『Dirty Dancing: Havana Nights』と、タイトルを受け継ぎ、パトリック・スウェイジも特別出演した映画が作られるも、『ダーティ・ダンシング』とは直接的に関係のないドラマで、評判も今ひとつだった(日本では『ダンシング・ハバナ』というタイトルで公開)。また、2011年に伝えられたケニー・オルテガ監督によるリメイクは、その後に立ち消え。2017年には『リトル・ミス・サンシャイン』(06)のアビゲイル・ブレスリンがベイビー役を演じ、ダンスの振付をオリジナル版そっくりに再現したTV用作品『ダーティ・ダンシング』が作られた。
このように時代を経ても再生産されるのは、ひとつの時代を築いた映画の運命でもあるが、パトリック・スウェイジとジェニファー・グレイによるクライマックスのダンスの興奮、テンションを超えることは至難の業であり、だからこそ2人が放った輝きは永遠に失われないのである。
文:斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。クリティックス・チョイス・アワードに投票する同協会(CCA)会員。
(c)Photofest / Getty Images