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『哀れなるものたち』“知”と“性”が躍動する、ピグマリオンのニュー・スタンダード

©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『哀れなるものたち』“知”と“性”が躍動する、ピグマリオンのニュー・スタンダード

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“いま”の物語



 『哀れなるものたち』のもう一つの魅力は、大胆なルック。コントラストの効いた鮮やかな色彩、スチームパンクな美術設定。強烈なビジュアルが観客の目を惹きつけて離さない。だが意外にも、撮影は非常にクラシカルなものだった。撮影はデジタルではなくフィルムだし、アレクサンドリアやロンドン橋はミニチュア撮影。船のデッキの背景には、巨大なLEDスクリーンが使われている。セットの後ろで映像を流すというやり方は、映画黎明期から用いられてきた古典的テクニックだ。撮影監督のロビー・ライアンもこう証言する。


「彼(ヨルゴス・ランティモス)は、ほとんど1台のカメラでしか撮影しない。カメラ2台で撮影するシーンもいくつかあったが、彼はドリーとトラック、そしてオペレーターがいるカメラという、昔ながらの方法で撮影するのが好きなんだ。(中略)シンプルなことをうまくやっているからこそ、その技術が発揮されていると思う」


 カメラワークには、スタンリー・キューブリックの影響が大きく感じられる。ミディアムショットからクローズアップに寄っていくズームの多用。『シャイニング』(80)を彷彿とさせる、縦移動のドリーショット。そして、極端なワイドレンズ。20世紀初頭の映写機用レンズを再利用した“ペッツバールレンズ”を採用することで、四隅を歪ませる鮮烈なルックを作り出している。



『哀れなるものたち』©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.


 ギリシャ時代からクセツヨな作品を撮っていたランティモスだが、少なくともビジュアル面においては、ここまでエキセントリックではなかった。かつての盟友ティミオス・バカタキスから、ケン・ローチ、ノア・バームバック、マイク・ミルズ、スティーヴン・フリアーズなどの作品を支えてきた名撮影監督ロビー・ライアンにバトンタッチすることで、彼はより強烈な文体を携えることができたのである。


 もともと寓話性が強いヨルゴス・ランティモス作品だが、ビジュアルの進化/深化によってその印象はさらに強固なものになっている。典型的なピグマリオンとしての骨格を持つ『哀れなるものたち』もまた、非常に寓話的な物語。そこに現代的な視点がまぶせられることによって、父権的社会からの自立というテーマがより明確に、はっきりと浮かび上がる。間違いなくこのフィルムは、“いま”の物語だ。


 “知”と“性”が躍動する、ピグマリオンのニュー・スタンダード。鬼才ランティモスは圧倒的な想像力と知性で、映画史に強烈なインパクトを残してみせた。


(*1)https://chicago.suntimes.com/movies-and-tv/2023/12/13/23992544/poor-things-review-emma-stone-movie-mark-ruffalo-yorgos-lanthimos

(*2)https://www.nytimes.com/2023/12/07/movies/poor-things-review.html

(*3)https://www.theguardian.com/film/2023/dec/31/yorgos-lanthimos-poor-things-interview-director-favourite-lobster

(*4)https://www.vogue.com/article/emma-stone-yorgos-lanthimos-poor-things-interview

(*5)https://www.vanityfair.com/hollywood/poor-things-emma-stone-and-yorgos-lanthimos-interview-awards-insider

(*6)https://awardswatch.com/interview-cinematographer-robbie-ryan-on-using-ektachrome-to-shoot-poor-things-and-the-happy-accident-that-made-for-a-perfect-shot/



文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。



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『哀れなるものたち』

大ヒット上映中

配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

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