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『哀れなるものたち』“知”と“性”が躍動する、ピグマリオンのニュー・スタンダード

©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

『哀れなるものたち』“知”と“性”が躍動する、ピグマリオンのニュー・スタンダード

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『哀れなるものたち』あらすじ

天才外科医によって蘇った若き女性ベラは、未知なる世界を知るため、大陸横断の冒険に出る。時代の偏見から解き放たれ、平等と解放を知ったベラは驚くべき成長を遂げる。


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十数年越しとなる念願の企画



 映画界最強のクセツヨ監督、ヨルゴス・ランティモスがまたやってくれた。エマ・ストーンを主演に迎えた最新作、『哀れなるものたち』(23)。やっぱりと言うべきか、想像通りと言うべきか、一言ではなんとも形容しがたい、異形のマスターピースに仕上がっている。


 シカゴ・サンタイムズは「美しく派手で、素晴らしくひねくれていて、臆面もなく淫靡で、時にグロテスクなほど印象的」(*1)と評している。ニューヨーク・タイムズは「計算しつくされた不協和音によって、親しみやすくも異質な世界を作り上げている」(*2)と評している。『エマニュエル夫人』(74) meets 『フランケンシュタイン』(31)。もしくは、スチームパンクなビジュアルに彩られた『昼顔』(67)。とにもかくにも、一筋縄ではいかないフィルムだ。


 映画の舞台は、ヴィクトリア朝のイギリス。投身自殺した不幸な女性ベラ(エマ・ストーン)は、天才外科医バクスター(ウィレム・デフォー)の手によって胎児の脳を移植され、死の淵から蘇る。そんな彼女の無垢な美しさに、医学生のマックス(ラミー・ユセフ)は一目惚れ。愛を告白して婚約を取り付けるものの、ベラはプレイボーイとして知られる弁護士のダンカン(マーク・ラファロ)と駆け落ちしてしまう。それまでバクスターの屋敷に幽閉されていた彼女は、旅を通して初めて世界に触れ、知と性の冒険を繰り広げていく…。



『哀れなるものたち』©2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.


 原作は、アラスター・グレイが1992年に発表した同名小説。当時祖国ギリシャで映画を作り続けてきたヨルゴス・ランティモスは、全編英語の作品を作ろうと決心し、その題材探しに明け暮れていた。そしてこの小説を発見して衝撃を受け、これこそが自分が探し求めていたストーリーだと確信する。


「信じられないくらいに、とても映画的だった。非常に複雑な話だけど、この本の中に“映画”が存在することがはっきりと分かった。だから、まだ映画化されていないことが分かると、彼に会うためにすぐスコットランドに飛んだんだ」(*3)


 ランティモスが初めてアラスター・グレイに小説の映画化を打診したのは、2011年のこと。だが、グレイは彼の映画を観たこともなかった。息子にDVDプレイヤーの操作方法を聞いて、『籠の中の乙女』(09)を初めて鑑賞したという。そしてグレイは、息子ほど歳の離れたギリシャ人監督に、自分の作品を預けることに承諾する。


「彼はとても素敵な人だった。残念なことに、私たちが実際に映画を製作する数年前に亡くなってしまったけれど、とてもスペシャルでエネルギッシュな人だった。(中略)比較的高い予算で作った『女王陛下のお気に入り』(18)が成功して、周りの人たちが私がやりたいことをやらせてくれるようになったので、私はグレイの本に戻り、"これが私のやりたいことだ "と言ったんだ。長いプロセスだったけど、本のことはいつも頭の中にあったんだよ」(*4)


 ヨルゴス・ランティモスにとって『哀れなるものたち』は、十数年越しとなる念願の企画だったのである。




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