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『すべての夜を思いだす』めぐりあう時間たち、火を絶やさない女性たち

©2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF

『すべての夜を思いだす』めぐりあう時間たち、火を絶やさない女性たち

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類似性を探す



 初長編作品『わたしたちの家』(17)と同じく、清原惟はパラレルワールドを描いている。前作の舞台が家だったのに対し、今作は多摩ニュータウンという街が舞台になっている。メインの三人の女性たちは知り合いですらない。それぞれがそれぞれの事情を抱えこの街で生活している。ホンマタカシの撮った東京郊外の写真のような風景。かつて60年代の都市開発によって夢見られた街。どこも似たような風景と形容される街で、世代も違う彼女たちがすれ違う。清原惟はこの土地の類似性、三人の女性たちの類似性を探求していく。


 着物の着付けの仕事を解雇された知珠(兵藤公美)。知珠はハローワークに通っている。ハローワークの男性職員は知珠に「主婦」の多い職場を紹介する。言葉遣いも柔らかく、良心的な態度で求人を提案してくれるこの相談員に悪意はない。ただ主婦ではない知珠にとって、相談員が無意識に放った「主婦」という言葉がひどく引っかかる。人によっては流してしまうかもしれない自分への分類。知珠のリアクションには、勝手に分類されてしまうことへの確かな抵抗が感じられる。このシーンには知珠のキャラクター、そして彼女がこれまでどのように生きてきたかが的確に表わされている。


 『すべての夜を思い出す』は、リアクションの積み重ねを拾っていく映画でもある。控え目な第一印象を持ちつつ、物怖じせずにどんどん対象に向かっていくタイプの知珠は、この映画の持つ独特のユーモアをもっとも体現している。木の枝に引っかかってしまったバトミントンのシャトル。困り果てている子供たちを手助けしようと近づいていく知珠は、子供たちにほんのりと不信がられる。しかしこのシーンには愛すべき可笑しみがある。



『すべての夜を思いだす』©2022 PFFパートナーズ(ぴあ、ホリプロ、日活)/一般社団法人PFF


 知珠が和菓子屋で名物「武蔵野日誌」を買って以前の職場の同僚と話すシーンに、この作品の女性たちの類似性が浮かび上がる。おもむろに半導体について語りだす知珠。「へぇー、そうなんだ」という合いの手となる言葉のクッションを入れ、知珠に対してどうリアクションをとればいいかを考える、このほんの少しの間(ま)に本作の妙がある。同様の瞬間はガス検針員の早苗(大場みなみ)とマンション住民の会話や、最近一人でダンスすることを趣味にしていると告白する大学生の夏(見上愛)と友人との会話にも表われる。


 本作の登場人物たちは、相手の言葉をないがしろにしない。会話のかみ合わなさを肯定している。行方不明になった痴呆症の老人の言葉を何一つ否定せず、どこまでも付き添ってあげる早苗のように(徘徊老人をアッバス・キアロスタミ監督『ライク・サムワン・イン・ラブ』/12の奥野匡が演じている。ユーモラスな物悲しさを感じさせる見事な名演!)。知り合うこともない三人の女性たちの間に不思議な類似性が浮かび上がっていく。





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