日本にも『ビッグ・リボウスキ』マニアが増殖!
日本でも『ビッグ・リボウスキ』の支持は絶大だ。特に有名なのは、藤本タツキの人気漫画「チェンソーマン」。テレビアニメ版で米津玄師の「KICK BACK」が流れるオープニング映像は、様々な映画のパロディが連打される構成で、その中に『ビッグ・リボウスキ』を参照したボウリングのパートがある。本作のクセの強い登場人物の中でもとりわけ強烈な変態キャラクター、ジョン・タトゥーロ扮するジーザス・クインターナがキンタマを磨くようにマイボールを磨くシーンのパロディだ。また「チェンソーマン」の女性キャラクター、パワーちゃんは、実はジョン・グッドマンが演じるウォルター・ソブチャック(デュードの親友であるヴェトナム戦争退役軍人)がイメージソースらしい(見た目は似ても似つかないが)。ちなみにウォルターのモデルは『デリンジャー』(73)や『ビッグ・ウェンズデー』(78)、『若き勇者たち』(84)などの著名な監督、ジョン・ミリアスである。
『ビッグ・リボウスキ』(c)Photofest / Getty Images
さらに2023年の第36回東京国際映画祭「アジアの未来」部門で上映され、今年(2024年)1月に劇場公開された日本映画の恋愛コメディの快作『違う惑星の変な恋人』(監督:木村聡志)では、タイトルバックで『ビッグ・リボウスキ』に全面的なオマージュが捧げられている。またファッションの分野でも日本を代表するドメスティックブランド「サカイ(sacai)」が、2020年春夏コレクションとして『ビッグ・リボウスキ』とコラボレーションしたTシャツとフーディーを発売したりなど、その影響力を示す例は枚挙に暇がない。
ちなみに先述したエキセントリックなボウラーのジーザス・クインターナ(全身紫のユニフォームで、ジプシー・キングスによるイーグルスの「ホテル・カリフォルニア」ラテン調カヴァーに乗ってボウリング場で踊る)は、ほんの短い出番ながら『ビッグ・リボウスキ』屈指の人気キャラであり、ジーザスを主人公にした『The Jesus Rolls』(2019年)というスピンオフ・ドラマもジョン・タトゥーロの主演&監督で作られた。一方、ヒッピー崩れのデュードは後半のタクシーに乗っているシーンで「ピースフル・イージー・フィーリング」(1972年の「イーグルス・ファースト」収録曲)を耳にして、「イーグルスは嫌いだ」と口にするのだが……といった具合に、本作の膨大なトリヴィアに触れていったらキリがない。『ビッグ・リボウスキ』未体験の方は、ぜひこの特殊で奇妙な一撃を喰らっていただきたい!
文:森直人(もり・なおと)
映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「シネマトゥデイ」「Numero.jp」「Safari Online」などで定期的に執筆中。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当。
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