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『オッペンハイマー』心を忘れた科学、悲しいマラソン

© Universal Pictures. All Rights Reserved.

『オッペンハイマー』心を忘れた科学、悲しいマラソン

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悲しいマラソン



 そのうえで、この『オッペンハイマー』に強く感じられるのは、生活を豊かにするはずの科学が文明破壊をもたらすジレンマや、終わりなき核兵器への依存に対する疑問など、これらに目を向けた大局的な創造に他ならない。IMAXなどのラージスクリーン上でアクチュアルイベントを再現し、没入感をともなわせて観客に提供するのがノーランの視覚における大局アプローチならば、彼は今回、恒久的に人類についてまわるテーマへとそれを発展させ、内容においても、より大局を見据えた映画づくりへとフェーズを移行させたのだ。


 そんな大局の象徴的な要素として、自分は劇中におけるエドワード・テラーの存在を無視できない。テラーは1935年にヒトラー政権下のドイツから亡命してアメリカへとわたり、1940年代には核兵器推進の中心人物として、米政府に極秘の取り組みに着手するようはたらきかけた。そして原爆を開発したプロジェクト「マンハッタン計画」の初期メンバーとして関与し、劇中では軍拡の危険を告げるアラートのように登場する。


 『オッペンハイマー』の最後、おびただしい数の地上配備型迎撃ロケットが発射され、核の炎で地球が焼かれる幻像が末尾のヴィジョンとして示される。それはオッペンハイマーの閃きであるかのように演出されているが、原爆からやがては水爆へと継受される軍拡競争の夢魔は、現実にテラーが『オッペンハイマー』の後に主導したことなのだ。



『オッペンハイマー』© Universal Pictures. All Rights Reserved.


 こうした破滅への悪循環を、我々に示した身近な創作がある。それは特撮ヒーローTVシリーズ「ウルトラセブン」第26話の「超兵器R1号」(68)だ。遠星での兵器実験の影響で怪獣化し、復讐のために地球を襲撃しにきたギエロン星獣。背後にはエスカレートしていく熾烈な軍拡競争が横たわり、それはすなわち、


 「血を吐きながら続ける、悲しいマラソン」


 だと、ウルトラセブン/モロボシ・ダン(森次晃嗣)は悲観をあらわにする。『オッペンハイマー』のラストは、まさしくダンの台詞の別言といって相違ないだろう。


 冒頭「ミクロイドS」の歌詞に始まり、文尾を「ウルトラセブン」で締めるオタク的教養の適用は、ノーランの大局とは対照の視点にあるものかもしれない。しかし「心を忘れた科学」も「悲しいマラソン」も、すさまじい情報量を有する『オッペンハイマー』を捕捉するうえで、これほど正鵠を射た要言を自分は知らない。



文:尾崎一男(おざき・かずお)

映画評論家&ライター。主な執筆先は紙媒体に「フィギュア王」「チャンピオンRED」「映画秘宝」「熱風」、Webメディアに「映画.com」「ザ・シネマ」などがある。加えて劇場用パンフレットや映画ムック本、DVD&Blu-rayソフトのブックレットにも解説・論考を数多く寄稿。また“ドリー・尾崎”の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、TVやトークイベントにも出没。

Twitter:@dolly_ozaki



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作品情報を見る



『オッペンハイマー』

3月29日(金)より全国ロードショー中 

IMAX®劇場 全国50館 /Dolby Cinema®/35mmフィルム版 同時公開

配給:ビターズ・エンド  ユニバーサル映画

© Universal Pictures. All Rights Reserved.

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