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『フック』大人と子供の間で揺れ動くスピルバーグの心理模様

(c)Photofest / Getty Images

『フック』大人と子供の間で揺れ動くスピルバーグの心理模様

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子供ならではの創造性と大人になった喜びを、どちらも抱きしめる



 かくも世界中の子供が知るファンタジーを、スピルバーグの個人的な物語へと変容させた『フック』は、上映時間も144分とかなり長めで、子供向けの純然たるエンタテインメントとしてはやや不格好。だが、お腹にでっぷりと肉の付いたピーター・パンこそが当時のスピルバーグにとって興味の対象であり、掘り下げるべき対象だったことを考えると、本作は不格好な分だけ“リアル”が詰まっているように思える。


 中でも胸が熱くなるのは「時間」や「時計」を引き合いに出すくだりだ。フック船長が時計を嫌うのと並行して、ピーターもまた、妻から時間についてこう諭される。「子供たちはやがてすぐに成長して、私たち親のことになんて目もくれなくなる。家族が一緒に過ごせるのは今しかない。あなたは仕事一筋なのを言い訳に、せっかくの貴重な時間を無駄にしているのよ」


 そしていつしか、彼の胸中にありありと蘇るのは、かつて我が子の誕生を満面の笑みと幸福感で迎えた時の記憶だ。大人と子供の間を彷徨っていたピーター・パンは「そうか、僕は父親になりたかったんだ!」と一つの結論に達する。



『フック』(c)Photofest / Getty Images


 重要なのは、これが子供時代の否定ではないということだ。否定して次の段階へ向かうのではなく、昔も今も、どちらも大切なもの、尊いものとして全力で抱きしめる。


 そうやって子供の頃のイマジネーションを持ち続け、なおかつ家族を守る父親でもあるという「自分らしいあり方」をようやく見つけたピーターは、より自由に、より気高く、無邪気に空を飛ぶ。ネバーランドへと通じる窓は、いついかなる時も開きっぱなしで構わないのだ。


 これが傑作か秀作か凡作かはどうでもよいこと。スピルバーグはこの直後、何かが吹っ切れたかのように、大きな転機となる『ジュラシック・パーク』(93)と『シンドラーのリスト』(93)の製作へと向かう。と同時に、ケイト・キャプショーや子供たちと温かな家庭を築いていく。


 その意味でこの『フック』は、スピルバーグにとって新たな時代の始まりを意味する一作だったのではないだろうか。


*1、参照:

https://www.denofgeek.com/movies/why-steven-spielberg-was-unhappy-with-hook/


参考資料

映像『スピルバーグ!』(2017/アメリカ) 監督:スーザン・レイシー

書籍「スティーブン・スピルバーグ」ダグラス・ブロート著、栗山微笑子訳(新コー・ミュージック/1995年)



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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