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『硫黄島からの手紙』巨匠イーストウッドが日本を描き、新たな映画の歴史を作る

(c)Photofest / Getty Images

『硫黄島からの手紙』巨匠イーストウッドが日本を描き、新たな映画の歴史を作る

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現場で宝物を拾うためにテストは行わない



 監督にとって、非母国語がメインとなる作品を撮る場合、俳優のセリフ回しのどこにポイントを置いてOKを出すのか。その基準は難しいはずである。これについてクリント・イーストッドは次のように語っている。


「良い演技というものは言葉に関係なく伝わる。私は脚本を熟知しており、正直な演技をしてもらえればそれで伝わると思っている。心や魂が見えるのが正直な演技。そして演技とは本能的な芸術で、分析しすぎると本質がなくなる可能性もある。だから私は最初のテイクを重視する」


 イーストウッドの現場はテイク数が少ないことで知られているが、言語が違っていても俳優の本能を信じていることが、この言葉からよくわかる。本番のためのテストもイーストウッドは極力やらない。西郷一等兵役の二宮和也はテストを行わないことに不安をおぼえ、イーストウッドに理由を聞いたところ、次のような返事をもらって感銘を受けた。


「ニノ、僕は現場に宝物を拾いに来ているんだ。その宝物を集めて映画にする。テストの際に宝物を発見したら、それを捨てるしかないだろう?」



『硫黄島からの手紙』(c)Photofest / Getty Images


 イーストウッドは俳優でもあるので、監督の立場にいても演じる側の“気持ち”に深く配慮する。この『硫黄島』でも日本人キャストからの提案に耳を傾け、それが的確だと判断すれば次々と採用した。バロン西中佐を演じた伊原剛志は、目を開いた時に左右の瞳の色が異なっていてはどうかと撮影の3日前にイーストウッドに打診。『ミリオンダラー・ベイビー』(04)のモーガン・フリーマンでも同じことをやったイーストウッドは快諾し、伊原はすぐに眼科で検査を受け、どれくらいの濁りにするかをテストした後に、およそ半日で映画用のカラーコンタクトが完成させた。そのあまりにスピーディな対応に伊原も感銘を受けたという。


 演じる自由を与えられた俳優は、むしろ監督への信頼感を増大させる。渡辺謙は、文献はもちろんモデルとなった栗林中将の生家を訪ね、孫や親戚から話を聞くなど念入りなリサーチを経て、英語で書かれた脚本を日本語のセリフに変換する作業も手伝うなど並々ならぬ努力を払ったが、いざ演じる際に参考にしたのはイーストウッド本人だった。イーストウッドの立ち居振る舞い、彼がスタッフと談笑する姿を観察し、栗林中将の演技に役立てたという。このエピソードは、映画の主人公とは監督と主演俳優の一体化であることを証明するかのようだ。




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