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『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』英国随一の脚本家&稀代の夫婦監督によるドリームチームがもたらしたもの
2018.07.13
真の意味での立役者、名脚本家サイモン・ボーフォイ
一方、サイモン・ボーフォイがこの映画にもたらしたものも大きい。その役割は単なる脚本家としての領域を超えていたようにも感じられる。何しろ誰よりもビリー・ジーン・キングと最も多くの時間を過ごし、彼女の全幅の信頼を勝ち取っていたのも彼。プロジェクトの初期段階でニューヨークにあるキングの自宅を訪れて「この映画を作らせてくれませんか?」と説得したのも彼だったと言われる。この時、緊張と興奮を胸に、なかば全権委任大使のような立場でミッションに臨んだボーフォイに対して、キングはこう答えたそうだ。
「あなたの手がけた作品は全部観ているし、どれも大好きです。そしてあなたはこの題材にとてもピッタリな方だと思います」
この瞬間、ボーフォイには目の前のキングに対する責任と、なおかつ観客を魅了するような作品を作らなければという責務とが生まれ、身が引き締まる思いがしたという。
ではなぜキングは、このボーフォイのことを「ピッタリ」と感じたのだろうか。
ボーフォイのキャリアを紐解く時、必ず持ち出されるのはデビュー作『 フル・モンティ』(1997)だ。弱冠30歳にして世界中の大絶賛をかっさらったこの作品は、鉄鋼産業の低迷によって職にあぶれた男たちが男性ストリッパーとして一花咲かせようと奮闘する突拍子もないコメディだった。大の男たちがフル・モンティ(スッポンポンという意味)になろうというのに、ボーフォイの描く内容は決して下品にはならない。それどころか登場人物たちが勇気を持って社会の荒波に立ち向かう姿を、ありったけの敬意を込めて描き尽くす。誰もがこの作品を愛してやまない理由はまさにそこにある。
『 フル・モンティ』予告
そして『バトル・オブ・セクシーズ』と『フル・モンティ』を並べてみて気づくのは、どちらも個人のドラマと、社会のドラマ(社会性、時代性)を巧みに一つの物語へとまとめ上げていく手腕が共通しているという点だろう。
実はこのボーフォイ、もともとはフィルム・スクールでドキュメンタリー作りを専門に勉強していたそうだ。それが理由なのかはわからないが、脚本を書く時には徹底した取材を欠かさないし、彼らへの敬意も忘れない。そして完全なるフィクションであってもそこに確固たるリアリティを刻んでいく。“笑い”の要素を忘れず、クライマックスに向けて気持ちのいい高揚感を醸成していく手法もボーフォイならでは。おそらくは、こういった一貫した仕事ぶりこそが、ビリー・ジーン・キングの全幅の信頼を勝ち取ったのだろう。