(c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』英国随一の脚本家&稀代の夫婦監督によるドリームチームがもたらしたもの
2018.07.13
度重なる取材と信頼関係から得たもの
そんなボーフォイは今回のキングについて「とにかく楽しくて、エネルギーの塊のような人」と語る。幾度も行われた取材は1日9時間にも及ぶこともあったそうで、終盤に差し掛かって彼がフラフラになっている時でさえ、キングは「さあ、これからが本番よ!」と映画さながらのバイタリティで応戦してくれたとのこと。
もちろんボーフォイの質問は、表向きの彼女の偉業のみならず、時に私生活のデリケートな問題にも切り込んだ。夫婦の関係性、浮気、同性愛・・・。特に、ダニー・ボイルからバトンを受け継いだデイトン&ファリスが関心を持ち、掘り下げたいと考えた観点の一つもそこにあった。
『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』(c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
彼らがキングの自宅を訪れて、直接質問を投げかけることもできたかもしれない。しかしデイトン&ファリスはそれをしなかった。自分たちがしゃしゃり出て関係性を損なうことがないよう、全権委任大使ボーフォイの手腕を信じて、彼に全てを託したのである。
この選択が功を奏し、キングもボーフォイを信頼して、話しにくいことでも勇気と寛容の精神で包み隠さず話してくれたという。これが映画にとって、重要な血となり、汗となり、独自の息遣いを生んだ。デイトン&ファリスもまた、この部分を丁寧にすくい取って重要なドラマ部分へと昇華。結果、本作は単なる歴史ドラマにとどまらない、ヴィヴィッドでリアルな気持ちが揺れ動く極めて有機的な映画に仕上がったのである。
こういった仕事ぶりを俯瞰すると、ボーフォイとデイトン&ファリスが極めて息の合ったチームだったことが改めて分かってくる。ボーフォイが「個人の物語」と「社会の物語」という目線を貫けば、デイトン&ファリス監督もまた、彼らならではの目線と感度で本作を多角的に織り成してみせる。この才能と才能のぶつかり合いが、いつしか濃厚な化学変化となって結実していったことは映画を見れば明らかだ。
完成した作品はもしかすると、当初ダニー・ボイルが自らの手で作り出そうとしていたものとはまるで異なるものだったかもしれない。だがそれでこそ、この脚本家と監督が組んだ意味があるというもの。この映画がもたらす唯一無二の興奮と躍動は、かくも才能あふれるクリエイターによる総力戦の賜物でもあったのだ。
参考:
http://www.stratford-herald.com/76898-interview-battle-sexes-scriptwriter-simon-beaufoy.html
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』
2018年7月6日 全国順次ロードショー
公式サイト: http://www.foxmovies-jp.com/battleofthesexes/
(c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
※2018年7月記事掲載時の情報です。