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『アニエス V.によるジェーン B.』親愛なるジェーンへ、ジェーン・バーキンへの“返信”

©️ CINÉ TAMARAS / ReallyLikeFilms

『アニエス V.によるジェーン B.』親愛なるジェーンへ、ジェーン・バーキンへの“返信”

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ジェーンを救え!



 「想像力を駆使して、ジェーンを多くの虚構や変形の中に連れて行き、最後には再び彼女を見つけることができるような形を発明したかったのです」(アニエス・ヴァルダ)*1


 「常に何かインスピレーションを与えてくれるものを追い求めて走り続け、すべてをセットアップしたときには、もうそのインスピレーションはなくなっている。自分の気持ちのためにも、常に活動的な状態でなければならない、それが彼女(アニエス)だった」(ジェーン・バーキン)


 『アニエスV.によるジェーンB.』でローレル&ハーディのハーディ役を演じているのはフェデリコ・フェリーニ監督やピエル・パオロ・パゾリーニ監督の作品で知られるラウラ・ベッティだが、アニエス・ヴァルダ自身が演じていると勘違いされることが多かったという。このエピソードはとても面白い。映画作家がまったく意図していない“錯覚”だが、取り換え可能なイメージこそが本作の魅力でもあるからだ。


 ジェーン・バーキンはローレルを演じることの難しさを語る。舞台でフランメンコを踊るシーンに関して、はっきりと嫌悪感を口にする。衣装も含めて大嫌いだと。本作のジェーン・バーキンはアニエス・ヴァルダの世界の“操り人形”ではない。これらのシーンを撮り、敢えて編集で残したのは、アニエス・ヴァルダによる“ミューズ”という概念への批判とも受け取れる。



『アニエス V.によるジェーン B.』©️ CINÉ TAMARAS / ReallyLikeFilms


 アニエス・ヴァルダにとって、ドキュメンタリーを撮ることは謙虚さを学ぶためだという。被写体を理解するために映画を撮る。とはいえ被写体の言いなりになるわけではない。アニエス・ヴァルダは、スターでありながら平凡な女性でいたいという“無名の有名人”への憧れを口にするジェーン・バーキンの矛盾を指摘する。ここには対話がある。そして本作のジェーン・バーキンはアニエス・ヴァルダとの対話を何より楽しんでいる。


 ジェーンを救え!ここには男性作家の“ミューズ”ではない、ジェーン・バーキンによるジェーン・バーキンの発見がある。アニエス・ヴァルダは年を重ねていくことへの恐怖を抱くジェーン・バーキンの手を引き、愉快なユーモアで抱きしめ、再び世界へ送り出す。アニエス・ヴァルダからジェーン・バーキンへの最高の贈り物。『アニエスV.によるジェーンB.』という作品自体が、ジェーン・バーキンからの手紙に対する親愛なる“返信”といえる。カメラを通してお互いを理解する。奇跡的に対等なコラボレーション。類まれなる二人がこの世からいなくなってしまったことが、たまらなく寂しい。メルシー、アニエス!メルシー、ジェーン!



*1「Varda par Agnès」 Agnès Varda, Bernard Bastide

*2「Agnès Varda」 Alison Smith

*3「Post-Scriptum: Journal 1982-2013」 Jane Birkin



文:宮代大嗣(maplecat-eve)

映画批評。「レオス・カラックス 映画を彷徨うひと」、ユリイカ「ウェス・アンダーソン特集」、リアルサウンド、装苑、otocoto、松本俊夫特集パンフレット等に論評を寄稿。



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作品情報を見る



『アニエス V.によるジェーン B.』

「ジェーン B.とアニエス V. ~ 二人の時間、二人の映画。」

8月23日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町 / テアトル梅田 他で全国順次ロードショー中

配給:リアリーライクフィルムズ

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