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『市民ケーン』映画史に輝く傑作を手がけた、若き天才クリエイターの映画術

(c)Photofest / Getty Images

『市民ケーン』映画史に輝く傑作を手がけた、若き天才クリエイターの映画術

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実在のモデル、ウィリアム・ランドルフ・ハースト



 “手放し続ける人生”を送ったと表現されるケーンに、モデルが存在することは有名だ。実際にケーン同様「新聞王」と呼ばれていたウィリアム・ランドルフ・ハーストである。父親が銀鉱山で財を成したこと、捏造記事によってスペインとの戦争を引き起こしたり、知事選に出馬したこと、そしてショーガールと結婚し、愛人のマリオン・デイヴィスのために映画会社まで設立するという経緯など、当時の誰が見ても、ケーンはハーストそのものとしか思えないほど共通点があるのだ。しかも本作は、ハーストが存命中に公開されたのだから、これ以上ないほどにセンセーショナルである。


 また、『Mank/マンク』で『市民ケーン』製作のいきさつを描いたデヴィッド・フィンチャーは、フェイスブック創始者であるマーク・ザッカーバーグをモデルにした『ソーシャル・ネットワーク』(2010)を撮っている。巨大SNSの創業者として大きな成功を収めたザッカーバーグの人間性に迫り、その矮小さ、人間くささを表現するという試みは、まさしくフィンチャーが、『市民ケーン』と同じことをやろうとしていたのが理解できる。



『市民ケーン』(c)Photofest / Getty Images


 また、スーザンのモデルとされているマリオン・デイヴィスについては、彼女が才能ある俳優であると後年ウェルズがフォローしていることから、彼女が実際のモデルになっているわけではないとする意見もある。しかし、あまりに符合する点が多いことから、少なくとも設定に利用されたことは明らかである。また本作では、スーザンがシリアスな役柄を演じて酷評されるが、それは彼女本来の奔放で明るいキャラクターとはかけ離れていた役だったことが暗示されている。マリオン・デイヴィスは、とくにコメディで力を発揮する俳優だったのだ。


 公開当時のハーストは、自分が映画のモデルになっていることを知ると激怒し、自分の新聞社で批評家に酷評させたり、ウェルズを共産主義者だとして批判するなど、メディアを利用して妨害工作をおこなっている。しかし本作『市民ケーン』では、ケーンが、共産主義者だと言われ選挙妨害を受けたり、真実に沿った劇評を書く姿が描かれていたことを考えると、これは非常に皮肉な出来事だといえるだろう。とはいえ、このハーストの工作は成功し、本作はアメリカで一部の玄人筋からの評価は得たものの、興行的な惨敗を喫することとなる。





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