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『エイリアン4』世紀末に狂い咲いたグロテスクSF超大作 ※注!ネタバレ含みます

(c)Photofest / Getty Images

『エイリアン4』世紀末に狂い咲いたグロテスクSF超大作 ※注!ネタバレ含みます

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ジュネ監督のビジョンと、シガニーの援護射撃



 本格的に企画に取り組み始めたジュネ監督は、大まかなビジョンを組んだ。まずは全編にユーモアを入れ、ブラックコメディ的な要素を取り入れること。自分がやる以上、ユーモアは欠かせないと彼は語っている。つまりホラー映画ではなく、これまで撮って来た映画『デリカテッセン』(人肉屋さんの話)や『ロスト・チルドレン』(カルト教団と少女と見世物小屋の怪力男の話)に連なる作品を目指したのだ。この発想は『エイリアン2』でホラー映画から、自分のフィールドであるアクション映画に持ち込んだキャメロン監督に近い。


 ただし、ジュネ監督の場合は、そこにもう一つの開き直りが入った。来日時のインタビューで彼はこう語っている。「エイリアンをめぐる恐怖はこれまでのシリーズですっかり定着している。私は嫌悪感を持たせようと試みた。ベタベタでグロテスクな存在をより強調することで観ている人が思わずエイリアンに嫌悪を感じる、そういう映画にしたかった」。さらにエイリアンをデザインしたH・R・ギーガーの世界観を再現しようとも考えていた。


 こういったジュネ監督の発想に、スタッフは忠実に動いた。数々の特殊効果が試され、新キャラクターであるニューボーンにも徹底的にこだわった。様々なスタッフが招かれ、その中には、あのクリス・カニンガムもいたという。後にエイフェックス・ツインのトラウマMV「Come to Daddy」を監督する人物で、彼は劇中で鮮烈な印象を残すクローン・リプリーの失敗作たちのコンセプト作り参加した。こうしたスタッフ一丸となっての頑張りによって、次第にグチャグチャのドロドロのグロテスクでありながら、どこか悲哀ある世界観が作られていった。



『エイリアン4』(c)Photofest / Getty Images


 もちろん、ジュネ監督も一から十まで好き勝手にやったわけではない。撮影前には主要なスタッフと「合宿」を行い、ハリウッド映画を観まくって、その文法を研究した。他にも納期と予算には気を配り、セットを使い回しができるようにするなど、あれこれ工夫をしたという。スタジオから「残酷すぎでは?」と言われた箇所について「試写会で大ウケした」という事実に基づいて反論して通しつつ、ニューボーンにつけていた性器が露骨すぎると怒られた時には、「言われてみるとそうかも」と普通に修正した。我を通しながらも、堅実に勉強もして、妥協するところはアッサリ退く。雇われ監督としての立場を守りながら、自分の作風に映画を仕上げていった。


 初ハリウッドで上手く立ち回るジュネ監督だが、さらにとある大物が彼を全面的にバックアップした。他ならぬ主演のシガニー・ウィーバーである。『エイリアン4』の脚本を気に入っていたウィーバーは、誰よりもリプリー役にこだわりを持つ主役として、並々ならぬ情熱を持って現場に入っていた。たとえば金属製の手錠を外すシーンでは、本当に金属製の手錠をかけて撮影に挑んだ。そのせいで手首を痛め、カットがかかるごとに涙していたが、撮影が再開すると何事もなかったかのように撮影に挑んだという。他にもバスケットのボールをゴールに背を向けた状態で投げ入れるシーンで、CGの使用を断固拒否し、猛特訓して「スラムダンク」の三井も真っ青のシュートを実際に決めたのも有名な話だ。


 そんなウィーバーは、ジュネ監督に強力な援護射撃を行った。彼女が最も活躍した箇所は、リプリーがエイリアンにさらわれるシーンだ。リプリーがエイリアンで埋め尽くされた地面に落下し、そのまま床に飲み込まれてしまう。そして一匹のエイリアンがリプリーを抱き、まるで赤ん坊を運ぶように移動する。エイリアンと人間の遺伝子が混ざり合ったリプリーは、エイリアンではないが、人間でもないのだ。そのことを示す美しいシーンだが、スタジオは予算の都合からシーンの削除を求めた。さすがのジュネ監督も困ったが、事態を知ったウィーバーがブチギレ。共演のウィノナ・ライダーと共に衣装のままフォックスの会長を訪ね、予算を確保するよう直訴した。さらに「このシーンをカットするなら、宣伝に一切協力しない」とまで宣言し、なんとか予算の確保に成功する。


 水中撮影では俳優が死にかけたらしいが、現場は一致団結し、映画の完成へ突き進んでいく。完成が近づく頃には、フランス語しか喋れなかったジュネ監督も、ウィーバー曰く「アメリカ水兵に負けないくらい口汚くののしっていた」レベルの英語をマスターしていた。


 そして97年、映画は公開される。賛否両論を巻き起こす。ちなみにジュネ監督はパリでエイリアンをデザインしたギーガーに会った際に、『エイリアン4』について「良かったよ」と褒められたそうだ。ギーガー的な世界観の再現を掲げていたジュネ監督にとって、これは何より嬉しかっただろう。そして何だかんだで興行的にも成功を収めた。これまた来日時に、ジュネ監督はこう笑っている。「配給会社に損はさせていない」




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