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『紅いコーリャン』圧倒的な映像美、チャン・イーモウ監督衝撃のデビュー作

© 1988, Xi'an Film Studio, All rights reserved

『紅いコーリャン』圧倒的な映像美、チャン・イーモウ監督衝撃のデビュー作

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傑出していたヴィジュアリストとしてのセンス



 また『紅いコーリャン』を改めて観ると、中国第五世代の精鋭監督たちの中で、なぜチャン・イーモウが別格的なポジションを得られたのか――その理由がよく判る気がする。やはりヴィジュアリストとしての飛び抜けたセンスと能力が備わっていたからだろう。


 チャン・イーモウは北京電影学院でも撮影学科の出身で、当初はカメラマンとしてキャリアを開始した。チャン・チュンチャオ(張軍釗)監督の『一人と八人』(84)や、チェン・カイコー監督の『黄色い大地』(84)と『大閲兵』(86)、主演も兼ねたウー・ティエンミン監督の『古井戸』で撮影を担当(ちなみに『古井戸』では第2回東京国際映画祭で主演男優賞を受賞している!)。映像感覚の鋭さはこういった出自も大きいだろう。『紅いコーリャン』では撮影を北京電影学院の同期であるクー・チャンウェイ(年齢はイーモウの7歳年下)に任せたが、もっと総合的なデザインワークにまで仕事の目を広げ、他の無骨な第五世代とは一線を画す“イーモウ・スタイル”を確立したわけだ。その視覚表現としてのスタイリッシュかつモダニッシュな美学性は欧米や日本からも熱狂的な支持を受け、例えば評論家の今野雄二(1943年生~2010年没)は「それまで中国映画をあまり見ていなかった」と告白しつつ、『紅いコーリャン』で中国映画に漠然と抱いていたイメージが一気に覆され、マーティン・スコセッシやブライアン・デ・パルマと「同じところにいる人」だとチャン・イーモウについて語っている(『ディレクターズ・ファイル チャン・イーモウ』キネマ旬報刊より)。


 おそらく国際的な場においては、欧米のビッグネームたちと同じ地平に並んだことで、中国第五世代の名を本格的に轟かせた嚆矢のひとつとして『紅いコーリャン』は位置づけられるのだろう。しかし世界が騒ぎ始めた頃――実はチャン・イーモウのブレイクこそが、第五世代というムーヴメントの実質的な終わりでもあったようだ。北京電影学院で第五世代の監督たちを指導した鄭洞天監督(1944年生まれ)は『紅いコーリャン』の登場について、こう総括している。


 「『紅いコーリャン』は『黄色い大地』からはじまった第五世代の映画運動の最終到達点であり、次の時代へのプロローグを告げる時代の結節点をなす作品だったといえる。『紅いコーリャン』以降、彼らを第五世代監督とひとくくりにすることはもうできないだろう。それぞれが、独自の映画観に基き、独自の道を歩むことになると思う」(『紅いコーリャン』劇場パンフレットより。日下部悦子「『紅いコーリャン』in China ‘88」から抜粋)。


 確かにいきなり「最終到達点」をマークしてしまったチャン・イーモウは、このあと国家的な巨匠への道を歩み続ける。逆に言えば、第五世代という新しい波の中で撮られた彼の映画は『紅いコーリャン』だけだ。当時37歳、最高にラジカルだった頃のチャン・イーモウの革新性と情熱を存分に浴びていただきたい。



文:森直人(もり・なおと)

映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「キネマ旬報」「シネマトゥデイ」「Numero.jp」「Safari Online」などで定期的に執筆中。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当。



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『紅いコーリャン』

「張芸諜 チャン・イーモウ 艶やかなる紅の世界」

全国順次公開中

配給:AMGエンタテインメント

© 1988, Xi'an Film Studio, All rights reserved

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