『紅いコーリャン』あらすじ
1920年代末の中国山東省の小さな村で、貧しい農家の娘である九児は、家の経済的困窮を救うために、売られたかのような形で造り酒屋の李の元に嫁ぐことになった。嫁入りの途中、コーリャン畑で強盗に襲われるが、それを助けたのが余占鰲だった。嫁入り後再び実家に戻ることになった九児はあのコーリャン畑で余と再会し、二人は結ばれる。九児は嫁ぎ先に戻るものの夫は行方不明となっており、未亡人となった彼女は代わりに酒屋を切り盛りし、やがて余と結婚する。子供も生まれ、幸せな日々を送っていたが、やがてその村に日本軍が侵攻してきた…
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若き才気が漲る衝撃のデビュー作
猛烈なハイエナジーで「紅」が鮮烈に画面を染める。いまや2008年夏季と2022年冬季のオリンピック開会式・閉会式の総監督を手掛けるなど、名実ともに中国映画界を代表する巨匠になったチャン・イーモウ監督(張芸謀/1950年生まれ)。そんな彼が独自の美学を展開した初期の3作品がHDレストア版で日本公開されている。2024年12月27日(金)から開催中の特集上映「張芸謀 チャン・イーモウ 艶やかなる紅の世界」だ(シネマート新宿ほか全国順次公開)。ラインナップは1987年の衝撃の監督デビュー作『紅いコーリャン』、そして1990年の『菊豆〈チュイトウ〉』(製作総指揮は徳間康快。中国と日本の合作)と1991年の『紅夢』。いずれも監督の公私に渡るパートナーだった新人時代の俳優、コン・リー(鞏俐/1965年生まれ)とのタッグ作。1920年代(さらには30年代)の中国を舞台にした特濃の物語世界がスクリーンに広がる。
「張芸諜 チャン・イーモウ 艶やかなる紅の世界」
中国の「第五世代」と呼ばれる当時のニューウェイブ――青少年期に文化大革命(1966年~1976年。翌77年に終結宣言)を経験し、その痛みや苦みを踏まえて1980年代に台頭したポスト文革世代の若手映画作家たちは、主にヨーロッパの映画祭を通して自分たちの実力をワールドワイドに知らしめた。メンター的存在となったのは『古井戸』(87)の監督であるウー・ティエンミン(呉天明/1939年生~2014年没)であり、彼が所長を務めていた西安撮影所を拠点に、北京電影学院を卒業したばかりの新鋭たちが育っていった。チェン・カイコー(陳凱歌/1952年生まれ)やティエン・チュアンチュアン(田壮壮/1952年生まれ)、チャン・イーモウといった第五世代の旗手たちは、まさに中国映画史上のヌーヴェル・ヴァーグと言うべき決定的な画期点である。全体的な時代背景としては「改革開放政策」と呼ばれる、鄧小平の主導のもと1978年に始まった中国の本格的な経済近代化と、自由にものが言える風潮の到来があった。
そんな彼らの中でも突出して国際的な評価を獲得したスター監督がチャン・イーモウだ。『紅いコーリャン』は1988年2月に開催された第38回ベルリン国際映画祭で金熊賞(グランプリ)に輝き、『菊豆』は第43回カンヌ国際映画祭ルイス・ブニュエル賞、また第63回アカデミー賞外国語映画賞にノミネート、『紅夢』は第48回ヴェネチア国際映画祭銀熊賞などを受賞と華々しい戦歴を誇る。第五世代並びに中国映画の世界進出を切り開いた突破口にふさわしく、若く尖った才気がびんびんに発揮された初期3作品はどれも必見。その中で1本だけ選ぶとなると、やはり最初の『紅いコーリャン』になるだろう。のちに『HERO』(02)や『LOVERS』(04)などで巨大な大衆性へと拡大/成熟していくチャン・イーモウ流儀の様式美の原点でありつつ、デビュー作ならではの初期衝動的な荒々しいダイナミズムに満ちている。これほど尖鋭的でギラギラしたチャン・イーモウは以降観られないのだ。
圧倒的な映像美と、新人時代の名優たちが織りなす疾風怒濤のパワー