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『紅夢』色彩に魅せられ色彩に追放される、紅い“ゴースト・ストーリー”

© 1991, China Film Co-Production Corporation, All rights reserved

『紅夢』色彩に魅せられ色彩に追放される、紅い“ゴースト・ストーリー”

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紅い儀式



 既に年老いている第一夫人は挨拶に来たスンリェンと目を合わせようとしない。スンリェンは「100歳に見えるほど老いていた」と第一夫人の印象を語る。明るく面倒見のよさそうな第二夫人は、笑顔の裏で他の夫人を陥れようとしている。陳家に嫁ぐ前は役者として活動していた第三夫人は、屋敷全体に響く甲高い歌声で、主人と一夜を過ごしたスンリェンに露骨な嫌がらせをしてくる。そして第四夫人になれなかった召使のエンアルがスンリェンに敵意を剝き出しにする。スンリェンは反抗的なエンアルに対抗するために第四夫人としての権力を行使する。屈辱を味わわせる。あなたは私より下の人間だと。この二人が初対面するシーンは、スンリェンが当初持っていたはずの反抗心や気の強さが別のベクトルへと移り変わっていく発火点となっている。スンリェンは本来興味がなかったはずの覇権争いに加担していく。若く美しいスンリェンは自分の強みを心得ており、他の夫人に負けるはずがないことも十分に理解しているように見える。しかし閉ざされた空間における夫人たちのサバイバルは洗脳の悲劇に他ならない。



『紅夢』© 1991, China Film Co-Production Corporation, All rights reserved


 主人を迎える夫人は使用人に足裏をマッサージされる。小槌のような道具で足裏を叩くおまじないのような儀式。足裏を叩くときの鈴のような音とリズミカルなビートが屋敷全体に響き渡る。呪術のようなビート。主人に選ばれなかった夫人たちは、この音の響きに傷つき、危機を覚え、嫉妬する。『紅夢』において足裏マッサージは提灯の点灯と同じく、“儀式”として描かれている。


 チャン・イーモウによると、スー・トンの原作「妻妾成群」には提灯点灯の描写はないという。チャン・イーモウはありもしない“儀式”を創作している。鮮烈な長編デビュー作『紅いコーリャン』(87)における御輿を担ぐ歌が、まったくの創作だったように。あるいはルイス・ブニュエル的な傑作ともいえる『菊豆』(90)の葬儀のシーンにおける奇天烈な儀式が、創作だったように。紅の儀式。紅という沈黙の言語。『紅夢』の儀式は、紅という色彩の持つ権力性、形骸性、象徴性を内側から撃ち抜いている。チャン・イーモウは当時のインタビューで中国の家父長制の深刻さを訴えていた。本作は中国国内で上映禁止の措置を受けている。





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