2025.02.03
ケイシー・アフレックとボー・ブリッジスの起用
音楽の神に見初められた弟と、見初められなかった兄。同じ血を分けた兄弟にも関わらず、二人のあいだには大きくて深い川が流れている。それでも兄のジョーはドニーを誰よりも愛し、優しく見守ってきた。
ドニーを演じるケイシー・アフレックもまた、偉大な兄…ベン・アフレックを遠くから見続けてきた。『アルマゲドン』(98)や『ペイチェック 消された記憶』(03)などのブロックバスター映画に数多く出演し、『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』(97)では盟友マット・デイモンと共同で脚本を書いてアカデミー賞を受賞。監督・製作・主演を務めた『アルゴ』(12)はみごと作品賞を受賞し、ベンはハリウッドで最も才能豊かな映画人のひとりと目されている。
一方のケイシーは、ニコール・キッドマン主演のサスペンススリラー『誘う女』(95)で俳優デビュー。だがスター性に溢れた兄とは異なり、甲高いボソボソ・ボイスで地味な印象の彼は、どの映画も端役ばかり。『チェイシング・エイミー』(97)や『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』では兄弟共演を果たしているが、正直言ってあまり記憶に残らない役柄だった。
転機となったのは、西部開拓期を舞台にした『ジェシー・ジェームズの暗殺』(07)。この作品でアカデミー賞の助演男優賞にノミネートされ、演技派としての評価を一気に高める。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(16)では、過去と向き合うことで孤独な心を解き放っていく男を見事に演じて、主演男優賞を受賞。華麗なゴシップと煌めくようなキャリアに彩られた兄とは異なり、地道に良質な映画に出演し続けることで、ケイシーは自分の居場所を見つけたのである。
『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』© 2022 Fruitland, LLC. All rights reserved.
そして、ドニーとジョーの父ドンを演じるボー・ブリッジスもまた、偉大な弟…ジェフ・ブリッジスを長きにわたって見守ってきた。『サンダーボルト』(74)、『スターマン/愛・宇宙はるかに』(84)、『ザ・コンテンダー』(00)といった作品でたびたびオスカー候補となり、落ちぶれたカントリー・ミュージシャンを演じた『クレイジー・ハート』(09)で主演男優賞を受賞。『アイアンマン』(08)や『キングスマン:ゴールデン・サークル』(17)などのハリウッド大作にも多数出演。ジェフは、理想ともいえる俳優道を歩んできた。
もちろん、ボーも『ノーマ・レイ』(79)や『ホテル・ニューハンプシャー』(84)などの作品で素晴らしい演技を披露しているが、弟と比べると地味なバイプレイヤーという印象は拭えない。ブリッジス兄弟がピアニスト役で共演した『恋のゆくえ/ファビュラス・ベイカー・ボーイズ』(89)は、凡庸な兄と天才肌の弟という設定だった。ケイシー・アフレックと、ボー・ブリッジス。華やかなスター街道を歩む兄弟を間近で見てきた彼らだからこそ、 ドニー&ジョー・エマーソンの物語はよりダイナミックに躍動するのだ。
映画のラストで、実在のドニーたちが演奏するのは「When A Dream Is Beautiful」。彼と妻のナンシー・エマーソンが共作した美しいバラードだ。
A dream is beautiful when a dream is beautiful
夢は美しい 夢は美しい
過去の自分と向き合い、兄と父親に心のうちを明かすことで、ドニーは昔からの夢をようやく享受できるようになる。4/4拍子のリズムで描かれる音楽の奇跡。そう、『ドリーミン・ワイルド 名もなき家族のうた』には、まぎれもなく夢と奇跡が詰まっている。
(*1)https://pitchfork.com/reviews/albums/16841-dreamin-wild/
(*2)https://mspmag.com/arts-and-culture/bill-pohlad-dreamin-wild-qa/
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
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