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『バード』イーストウッドが否定した “破滅こそ芸術”

(c)Photofest / Getty Images

『バード』イーストウッドが否定した “破滅こそ芸術”

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『バード』あらすじ

ジャズ史にその名を残す天才アルトサックス奏者、“バード”の愛称を持つチャーリー・パーカー。18歳でニューヨークに進出し、やがてモダン・ジャズの起源となる”ビ・バップ”を生み出す。大成功を収めたパーカーは、ダンサーのチャンのハートを射止める。だが、幸せは長く続かずパーカーに影が差し始める。自分のバンドを率いて西部に進出するが失敗し、愛娘の死も重なって、次第に酒や麻薬に溺れるようになってしまい……。


Index


イーストウッドが描く“ジャズ”



 「巨人」と呼ばれる偉大なアーティスト、演奏家の一人であり、モダン・ジャズの起源となる新しい波「ビバップ」を生み出し、音楽分野、芸術の発展に大きく寄与したチャーリー・パーカー。その人生の物語を、熱心なジャズ愛好家であるクリント・イーストウッドが監督したのが、チャーリー・パーカーのあだ名をそのままタイトルとした『バード』(88)である。


 驚くのは、この映画のあまりに暗い雰囲気だ。ここまでダークな印象の音楽映画が他にあるだろうかと問いたいほど、多くの場面が闇に包まれ、陰鬱な展開が続いていくのである。なぜ、こんなにも打ち沈んでいるのだろうか。ここでは、悲哀に包まれたエピソードが淡々と羅列されるように見える『バード』が伝えようとしたものが何だったのかを、物語や演出、チャーリー・パーカーの実像などから考えていきたい。



『バード』(c)Photofest / Getty Images


 クリント・イーストウッドは、「バード」ことチャーリー・パーカー同様、10代にして聴衆の前でジャズを演奏していた経験がある。バードの演奏もオークランドで生で聴き、後に「最高のジャズミュージシャン」として、レスター・ヤング、デイヴ・ブルーベックとともに名を挙げている。プロのジャズミュージシャンへキャリアを積んでいくことを選ばず、俳優の道に進むことになったイーストウッドだが、ついに50代の後半になって、尊敬する伝説の存在「バード」を題材にした映画を監督するチャンスが巡ってきたというのだから、人生は面白い。


 物語の基となっているのは、バードの内縁の妻だったチャン・パーカーの回顧録だ。チャーリー・パーカーは生涯で何人ものパートナーを持ったが、彼女だけが彼を「バード」と呼んだのだという。チャン・パーカーは、未公開の演奏の音源をわざわざ映画のために提供してくれるなど、映画の製作はバードの人間性を最も知る一人からの協力を得られることとなった。同時に、彼女の視点によるエピソードが重要な部分となったことで、物語はバードの家庭での生々しい姿が、最も印象に残るものになったといえる。




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