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『バード』イーストウッドが否定した “破滅こそ芸術”

(c)Photofest / Getty Images

『バード』イーストウッドが否定した “破滅こそ芸術”

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“破滅こそが芸術”を否定する



 そんなバードだからこそ、薬物やアルコールに耽溺して身を持ち崩していく過程は、より悲痛なものとして映る。バードを演じたフォレスト・ウィテカーは、音楽へのこだわりに対しては真摯ながらも、社会生活や家庭生活において責任ある態度を取れないバードの人間性を見事に演じている。どのシーンでも、どこか子どもじみた表情を見せる、ウィテカー演じるバードは、その後の悲劇をも予感させ、常に哀愁を帯びているように感じさせる。ウィテカーは、この演技によってカンヌ国際映画祭男優賞を授賞し、演技巧者としての名を国際的に高めていく。


 そんなバードが例外的に、大人としての責任を見せるシーンがある。バードのはからいで、彼のクインテットで演奏をしていたレッド・ロドニー(マイケル・ゼルニカー)が、バードへの憧れから違法薬物に手を出した際、バードは本気になって、そんなものをやっても音楽は良くならないと、ロドニーを叱るのである。



『バード』(c)Photofest / Getty Images


 アートと薬物との関係は、長く語られてきているトピックだが、バード自身は取材の際に、やはり薬物が芸術分野に良い影響を及ぼすものではないという見解を語っている。ケミカルで得られる高揚は、アーティストにインスピレーションを与える場合はあるかもしれないが、芸術への追求は一生をかけて進めていくものだという観点に立てば、さまざまな弊害のある薬物に頼ることは避けるべきだと考えられる。実際、アルコールと薬物によって蝕まれなければ、バードはさらなるキャリアを積み、より多くの業績を遺したことだろう。


 破滅的な姿勢ながら、大きな名声と重要な業績を達成したバードだけに、彼の存在自体が、「破滅こそが芸術」だという実例だとして、通俗的な誤解に拍車をかけてしまうことになりがちだ。しかしそんな誤解を、バードの意思を受け継いで否定してみせたという部分は、本作『バード』が発するメッセージのなかで、最も力強いものだ。



文:小野寺系

映画仙人を目指し、さすらいながらWEBメディアや雑誌などで執筆する映画評論家。いろいろな角度から、映画の“深い”内容を分かりやすく伝えていきます。

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