2025.03.11
主役を男性から女性に変えたことで生まれた効果
映画『ヒズ・ガール・フライデー』のもとになったのは、ホークスと『暗黒街の顔役』(32)をはじめ数々の映画でタッグを組んだ脚本家ベン・ヘクトによる戯曲『フロント・ページ』。1931年にルイス・マイルストンの手で『犯罪都市』として一度映画化され、ホークスの後、1974年にはビリー・ワイルダーが『フロント・ページ』として三度目の映画化を手がけている。ただし、同じ戯曲から生まれた3つの映画のなかでも、『ヒズ・ガール・フライデー』は明らかに異彩を放つ。それは、元々の戯曲が男性編集長のウォルターと男性記者ヒルディの話であったのを、ホークスの思いつきで、女性記者と男性編集長の話へと変換されたからだ。
男性記者から女性記者への変更は、物語の枠組みを大きく変えた。記者生活に嫌気がさし結婚を機に仕事をやめようとするヒルディと、それを止めようとするウォルターという設定は同じだが、ヒルディを女性にしたことで、ふたりはただ上司と部下という関係にとどまらず、元夫婦という要素が加わった。そしてウォルターの作戦は復縁をめぐる悪巧みとなる。新聞社を舞台にした社会派コメディが、再婚をめぐるロマンティック・コメディへと変貌したのだ。
『ヒズ・ガール・フライデー』(c)Photofest / Getty Images
ヒルディの婚約者も女性から男性へと変更された。ヒルディの婚約者で保険会社に勤める善良な男性ブルースを演じるのは、ラルフ・ベラミー。彼は、『春を手さぐる』(35 監督:ミッチェル・ライゼン)や『新婚道中記』(37 監督:レオ・マッケリー)をはじめ、数々のロマンティック・コメディに出演した俳優だが、演じるのはたいてい主人公の婚約者や、彼女に求婚する心優しき常識人という役どころ。理想的なパートナーとして登場するが、最終的に主人公と恋に落ちるのは別の男。要は、主人公と真のお相手の恋愛を盛り上げるための「当て馬」的人物であり、ここから世間では、善良だが本命にはならないキャラクターを総じて「ベラミー」と呼ぶようになった。
『ヒズ・ガール・フライデー』でもやはり、ラルフ・ベラミー演じるブルースはヒルディとウォルターのカップルという再結成によって物語から弾き出される。劇中では、ブルースのことを、ウォルターが「俳優のラルフ・ベラミーそっくりな男」と呼ぶくだりがあるが、これはブルースが「ベラミー」的人物であると示唆するだけでなく、実際のラルフ・ベラミーがその役を演じているのをジョークにしたシーンだ。