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『ヒズ・ガール・フライデー』映画『バービー』にも影響を与えたスクリューボール・コメディの金字塔 ※注!ネタバレ含みます

(c)Photofest / Getty Images

『ヒズ・ガール・フライデー』映画『バービー』にも影響を与えたスクリューボール・コメディの金字塔 ※注!ネタバレ含みます

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凄まじい早さで繰り広げられる会話劇



 この映画を見てまず驚くのは、交わされる会話のスピード。その早さは、もはや伝説と言っていい。グレタ・ガーウィグは、自作『バービー』(23)に影響を与えた古典映画の一本として『ヒズ・ガール・フライデー』を挙げ、「史上最高の早口映画」だと述べている。


 ケーリー・グラントとロザリンド・ラッセルが開始早々に繰り広げる対話シーンは強烈だ。お互いへの牽制が始まったかと思えば、あっというまに相手への罵倒や口説き文句へと変わり、好き勝手な言葉を相手にぶつけながら、その合間に絶え間ないアクションを行いつづける。編集長室でふたりきりになったあと、男がタバコに火をつけると、女は自分にもとタバコをねだる。復縁を迫る彼が体に触れようとするのをきっぱり拒絶した女は、鏡で髪の毛を整え、あきれたように部屋の中を歩き回る。怒りにまかせて彼女がバッグを投げつけると、男は素早く屈んでバッグをよけ、「以前より腕が落ちたね」と揶揄いながら部下からの電話に答え出す。女は顔に白粉をはたき、電話を切った男が再び言いよると慌てて彼を押し返す。


 このたった数分間で、元夫婦であり上司と部下であり敵同士でもあるふたりの複雑な関係性が見事に説明されてしまう。その流れるような台詞と所作の連打に、何度見ても見惚れてしまう。彼らの力関係は一瞬ごとに形を変えていく。ウォルターの悪企みが功を奏すのか、それともヒルディの頭脳が勝つのか、先の展開はまったく予測がつかない。彼らの攻防戦は終盤にかけてさらにスピードを上げていき、最後の大団円までジェットコースターのように突き進む。



『ヒズ・ガール・フライデー』(c)Photofest / Getty Images


 会話場面のスピードについては、製作当初から映画の大きな目玉として構想されていた。その詳細は、トッド・マッカーシーによる評伝「ハワード・ホークス」に詳しく書かれている。実は、一度目の映画化である『犯罪都市』は、すでに「これまでの映画の中で最も早いスピードで会話されている」作品としてよく知られていた。そこでホークスと脚本家たちは、このリメイク版においてさらなる新記録を打ち立てようと綿密な計画を立てた。俳優たちの会話をオーバーラップさせるため、「それぞれのセンテンスの頭と終わりの部分がダブって聞こえなくても通用するような台詞」を脚本家に書かせ、俳優たちのしゃべるスピードをひたすら早めさせたのだ。


 すでにホークス映画の常連俳優だったケーリー・グラントとは異なり、これが初参加となったロザリンド・ラッセルは、当初は監督の演出意図がわからず戸惑っていたようだが、時間が経つにつれすぐに慣れていき、グラントと一緒にアドリブを繰り広げ、監督を喜ばせた。「私たちは夢中になり、各自の台詞をオーバーラップし、相手がしゃべり終わるまでを待ったりしませんでした。ホークスはそんな私たちを見て快感を覚えているようでした」。


 ホークスの思惑通り、『ヒズ・ガール・フライデー』の会話場面は『犯罪都市』以上の台詞量と早さで有名になった。

 



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