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『教皇選挙』忠実に再現された投票のプロセス、その魅力

© 2024 Conclave Distribution, LLC.

『教皇選挙』忠実に再現された投票のプロセス、その魅力

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投票のプロセスが最大の魅力



 ベルガーは原作に認められた投票の詳細を、事実に忠実に再現している。そこが映画最大の魅力と言ってもいいほどだ。教皇が死去すると、その指から”漁師の指輪”と呼ばれる指輪が外され、破壊される(教皇の印章の偽造を防ぐためだ)。教皇の居室は深紅のリボンで閉じられ、蝋の教皇印で封印される。枢機卿団は投票の合間に食事と仮眠をとるため、”聖マルタの家”と呼ばれる部屋に隔離される。投票所となるシスティーナ礼拝堂はシャッターが閉められ、鍵がかけられる。投票用紙は投票が終わる度に燃やされ、ストーブと呼ばれる煙突からは、新教皇が選出されると白い煙が、選出されないと黒い煙が出て、外の人々に選挙状況を知らせる。


 ちなみに、2005年にベネディクト16世が新教皇に選出されたコンクラーベでは、1人の記者が召使に変装してバチカン内に侵入したことが発覚、全ての召使にIDが発行され枢機卿全員に携帯電話とその他電子機器の返却が求められた。



『教皇選挙』© 2024 Conclave Distribution, LLC.



レイフ・ファインズとアンソニー・ホプキンスの類似点とは



 原作と映画の関係性に話を戻すと、脚本家のピーター・ストローハンが施した最大のアレンジは、有力な候補者として登場するベニテス枢機卿を、原作ではバグダッド大司教区出身となっているところをアフガニスタンのカブール出身に置き換えた点。ベニテス枢機卿を演じるメキシコ人俳優、カルロス・ディエスは、本作のキャスティング・ディレクターであるニーナ・ゴールド率いるチームが世界中を探して発見した逸材だ。彼の存在が最終的には物語の鍵になる、とだけ付け加えておこう。


 劇中で終始クローズアップに耐えつつ、混沌とする選挙の対応に追われ、誰よりもバチカンを脱出したいのに許されないというローレンス枢機卿を演じるレイフ・ファンイズの力演は、同情を超えて時に笑いを誘う。コンクラーベとはラテン語の”閉じ込められる場所”が語源だと言う。教皇選挙の深層と現実社会とのリンクを、スリラー要素満載の人間ドラマとして描いた『教皇選挙』。ファインズに与えられたこの役柄は、『日の名残り』(93)でアンソニー・ホプキンスが演じた、イギリスの名門貴族に人生を捧げる老執事を彷彿とさせる。両作品とも、幽閉された部屋の窓から外の風景をただ眺めるしかない人間の悲しみを表現しているからだ。今年のアカデミー作品賞候補作の中でも、端的に言って面白さでは随一だ。



文:清藤秀人(きよとう ひでと)

アパレル業界から映画ライターに転身。現在、映画com、MOVIE WALKER PRESS、Safariオンラインにレビューやコラムを執筆。また、Yahoo!ニュース個人にブログをアップ。劇場用パンフレットにもレビューを執筆。著書に『オードリーに学ぶおしゃれ練習帳』(近代映画社刊)、監修として『オードリー・ヘプバーンという生き方』『オードリー・ヘプバーン永遠の言葉120』(共に宝島社刊)。



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『教皇選挙』

TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー中

配給:キノフィルムズ

© 2024 Conclave Distribution, LLC.

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