全世界に14億人以上の信者を持つキリスト教最大の教派、カトリック教会。その総本山のバチカン市国で、最高指導者で元首でもあるローマ教皇が亡くなる。早速、新教皇を決める教皇選挙・コンクラーべのために、世界中から100人を超える候補者たちが集結。システィーナ礼拝堂の閉ざされた扉の向こうで極秘の投票がスタートする。だが、選挙を仕切ることとなったローレンス枢機卿を待っていたのは、候補者たちにまつわるスキャンダルの数々だった。
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かつてのコンクラーベ関連作と異なる点
教皇選挙・コンクラーベに関する映画と言えば何本か思いつく。まずは、2012年当時にローマ教皇だったベネディクト16世と、翌年に教皇の座を受け継ぐことになるホルヘ・マリオ・ベルゴリオ枢機卿の間で行われた対話にフォーカスした『2人のローマ教皇』(19)がある。ベルゴリオ枢機卿を演じたジョナサン・プライスが第92回アカデミー賞の主演男優賞候補に、ベネディクト16世を演じたアンソニー・ホプキンスが同助演男優賞候補に挙がった話題作だ。また、人気シリーズの続編『 天使と悪魔』(09)では、ローマ教皇の死に伴い巻き起こる枢機卿拉致事件と秘密結社の関連を、トム・ハンクス演じるロバート・ラングドン教授が追求する。コンクラーベによって誰もが予想しなかった新法王に選ばれてしまった主人公が、その重圧に耐えきれずローマの街へと逃走してしまう『ローマ法王の休日』(11)もあった。
『教皇選挙』© 2024 Conclave Distribution, LLC.
以上はあくまでコンクラーベが話のきっかけであり、選挙そのものを描いているわけではない。そこに着目したのが本作『教皇選挙』だ。始まりはベストセラー作家、ロバート・ハリスの原作である。
ノンフィクション作家としてキャリアをスタートしたハリスは、やがて、事実に基づくエンタメ小説を何作か発表する。その代表作は、『ゴーストライター』だろう。当時親交のあったイギリスのブレア首相がイラク戦争に加担にしたことに対するハリスの深い失望感を、上質なポリティカル・サスペンスへと転化させた。ロマン・ポランスキーによって映画化された同作は、舞台になる孤島の寒々とした風景とも相まって、忘れ難い1作となった。