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『ウィキッド ふたりの魔女』ミュージカルの歴史にもリスペクトを捧げる理想の映画化 ※注!ネタバレ含みます
2025.03.07
※本記事は物語の核心に触れているため、映画未見の方はご注意ください。
『ウィキッド ふたりの魔女』あらすじ
魔法と幻想の国オズにある<シズ大学>で出会ったふたり― 誰よりも優しく聡明でありながら家族や周囲から疎まれ孤独なエルファバと、誰よりも愛され特別であることを望むみんなの人気者グリンダは、大学の寮で偶然ルームメイトに。見た目も性格も、そして魔法の才能もまるで異なるふたりは反発し合うが、互いの本当の姿を知っていくにつれかけがえのない友情を築いていく。ある日、誰もが憧れる偉大なオズの魔法使いに特別な力を見出されたエルファバは、グリンダとともに彼が司るエメラルドシティへ旅立ち、そこでオズに隠され続けていた“ある秘密”を知る。それは、世界を、そしてふたりの運命を永遠に変えてしまうものだった…。
Index
ミュージカル映画の名手となった監督
2003年にブロードウェイで初演された「ウィキッド」が、トニー賞3部門受賞など高評価を受け、世界各国の上演で圧倒的な人気を得たのは、『オズの魔法使』(39)という基になった作品の比類なきポピュラリティに、新作ミュージカルのために作られたスティーヴン・シュワルツ(作詞・作曲)のナンバーの完成度の高さが重なったためだろう。
ミュージカル好きにとって、シュワルツは「ウィキッド」以前にも名作の作詞・作曲を手がけており、ただそれらは1971年の「ゴッドスペル」、1972年の「ピピン」といった、遥か以前の作品であった。もちろん1980〜90年代も多くの舞台ミュージカルに関わっていたし、映画でも『ポカホンタス』(95)や『ノートルダムの鐘』(96)といったディズニーアニメの作詞を担当していたものの、なかなか“代表作”には恵まれず、満を持して挑んだ「ウィキッド」でシュワルツはその才能と、長年の経験をパーフェクトに発揮したのである。
2003年以来、世界各国で上演され続ける「ウィキッド」の映画化プロジェクトが進むのは当然の流れだったが、製作のスタートまでかなり長い時間がかかった。その間に監督候補としてJ・J・エイブラムス、ジェームズ・マンゴールド、ライアン・マーフィー、ロブ・マーシャルの名前が上がり、一時は『リトル・ダンサー』(00)のスティーヴン・ダルドリーで決まりかけたが、最終的にジョン・M・チュウが務めることになる。
『ウィキッド ふたりの魔女』© Universal Studios. All Rights Reserved.
ジョン・M・チュウは直前の監督作『イン・ザ・ハイツ』(21)もブロードウェイ・ミュージカルの映画化で、さらに遡れば『ステップ・アップ2:ザ・ストリート』(08)、『ステップ・アップ3』(10)というダンスムービーのシリーズも手がけている。『イン・ザ・ハイツ』では、スイミングプールを舞台にしたナンバーで、MGMミュージカルの黄金期を作った監督・振付家のバスビー・バークレーの演出にオマージュを捧げるような、大群舞のミュージカルシーンを完成。さらに同じくMGMミュージカルの大スター、フレッド・アステア主演の『恋愛準決勝戦』(51)での、回転セットによる特殊撮影も模倣した。そして『オズの魔法使』も、MGMミュージカルの代表作という深い縁がある。
『オズの魔法使』で竜巻によって異世界のオズの国に飛ばされた少女ドロシーは、最終的に“善い魔女”グリンダの力によって故郷のカンザス州に戻る。そのグリンダと、“悪い魔女”となるエルファバの大学時代の友情を描くのが『ウィキッド ふたりの魔女』だが、チュウ監督は大学の図書館のシーンで再び『恋愛準決勝戦』を、あからさまにヒントにした。グリンダの学友フィエロのナンバー「ダンシング・スルー・ライフ」を、巨大な本棚が回転するセットで撮影したのだが、『イン・ザ・ハイツ』で重力の方向が変わる当該シーン以上に、直接的なオマージュを感じさせる。図書館の本棚は円形のデザインで、それが回転するのだが、本棚をつなぐハシゴも一緒に回転し、そのハシゴが「O」と「Z」の文字を形成する。つまり「オズ」。この演出は感動モノである。