男から女へのひたむきな愛が、ベネックスの代表作に
『ディーバ』と『ベティ・ブルー』には大きな共通点がある。それは、男から女へのひたむきでまっすぐな愛だ。『ディーバ』の主人公、ジュールが、人気オペラ歌手、シンシア・ホーキンスに注ぐ愛情は、楽屋で彼女のドレスを盗むなどストーカー的である。しかしその想いがあまりに純粋だとシンシアに受け入れられ、最終的にはシンシアに自身の真の才能を気づかせる「導き役」ともなる。ひたむきな愛のかたちが、そこに存在していた。
そして『ベティ・ブルー』で、奔放すぎるベティに振り回されながらも、彼女への愛を貫くのが、ゾルグだ。仕事相手の車にペンキをぶちまけ、自宅に火をつけるなど、本能に任せるベティの行動に常識やモラルは皆無。普通の男なら、愛想をつかすだろう。ここでも男から女への愛は、理屈では説明できないかのごとく描かれる。『ベティ・ブルー』ではゾルグが書いた小説にベティが惚れ込み、出版社に執拗に売り込むのだが、これは『ディーバ』とは逆のパターンで、女が男の才能を引き出す結果につながった。
『ベティ・ブルー』© Photofest / Getty Images
映画のラブストーリーは、どちらかといえば女性が主体となり、女性目線でつづられるパターンが多い。それはラブストーリーを映画のジャンルとして好む女性が多いという要因もあるのだろうが、ジャン=ジャック・ベネックスは『ディーバ』と『ベティ・ブルー』という2つの代表作で、男から女への愛を描ききった。一見、女性主体の物語にも感じられる『ベティ・ブルー』だが、ディレクターズ・カット版(『インテグラル』)で男性側が主体となっていることは、前回の記事で述べたとおりだ。
映画デビューとなったベティ役、ベアトリス・ダルのインパクトもさることながら、こうして男から女への愛を見事に表現できたのは、ジャン=ユーグ・アングラードの、ソフトで繊細、控えめながら確かな包容力を感じさせる持ち味に負うところが大きい。