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『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』トム・クルーズNever Look Back

©2025 PARAMOUNT PICTURES.

『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』トム・クルーズNever Look Back

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トム・クルーズは止まらない



 「トムクルさんにどんな無茶をさせるか考えて、その次に物語を考える」このフレキシブルすぎる姿勢によって、アクションはドンドン過激化した。『ゴースト・プロトコル』に続く『ローグ・ネイション』(15)では、トムクルさんが飛び立つ飛行機にしがみついた。続く『フォールアウト』(18)にて、とうとうシリーズはアクションの最高値を叩き出す。トムクルさんは上空約8,000メートルからスカイダイビングを行い、ヘリコプターにブラ下がったかと思うと、さらにそのまま紐で吊るされた荷物の上にピンポイントに落下する離れ業に挑戦。トイレの中での格闘シーンもド迫力で、間違いなくシリーズ最高のアクションを見せてくれた。映画は世界各国で絶賛され、大ヒットを記録する。トムクルさんの度を越したサービス精神と、本物志向、労働への意欲が結実した瞬間であった。


 しかし一方、物語の作り方を変えたことによる弊害も出始めていた。その一例が『フォールアウト』の予告編だ。予告ではトムクルさんが操縦するヘリがトラックに突っこんでいき、あわや衝突! という瞬間にタイトルが表示されていた。筆者は「どう考えても詰んでいたけど、どうやって防ぐんだろう?」とワクワクで劇場に向かったが、そのシーンは丸ごと消えていた。撮ってはいたが、しっくり来なかったのか? それともやっぱり何も思いつかなかったのか? 真相は闇の中である。


 その弊害は、続く『デッドレコニング PART ONE』(23)で、より顕著になった。同作でトムクルさんはバイクで崖から飛んで、その直後にパラシュートを開いて降下する過去最大規模のスタントに挑戦。大いに話題になったが、一方でストーリーは混乱していた。上映時間は長くなり、話は複雑になり、追い切れない部分も増えた。その直接の続編にあたる今回の『ファイナル・レコニング』は、話をまとめるために苦労しているのが見て取れた。実際、映画が完成したのはジャパン・プレミアの三日前だったという。



『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』©2025 PARAMOUNT PICTURES.


 そんなわけで『ファイナル・レコニング』は背後の混乱が見える映画だった。率直に言うと、上がり過ぎたシリーズのハードルを、超えることができなかったとも思う。しかし、では駄作かと言うと、そうではない。トムクルさんの度を越えたサービス精神と、限界を突破したアクションが、映画を見事に救っている。今回のアクションは、基本的にトムクルさんが一人で全てを担当していると言ってもいい。中盤に用意された大規模な水中撮影は、閉所恐怖症の人には最高にスリリングだろう。そして最大の見所はクライマックスの飛行機チェイスだ。冒頭で書いた通り、もはやイーサン・ハントではなくトムクルさんが……否、もっと言えば一つの人命が心配で目が離せないだろう。体感としては『ポリス・ストーリー3』(92)でジャッキーがヘリコプターからブラ下がっているのと見た時に近い。これを現場で見ていたスタッフの胸中を考えると、心臓がキュッとなる。細かい話をすると、格闘シーンも個人的には見所だった。トムクルさんは高校時代にアマレスに打ち込んだ過去があるので、寝技/組み技/投げ技になると急にキレが増す。今回もそのアマレス魂を端々から感じることが出来た。アクション以外では、ギャグの強化も評価したい。トムクルさんが悪のAIの教えにずっぽりハマった悪漢に襲われ、パンツ一丁で格闘しながら「お前はSNSのやり過ぎだ!」と叱るシーンは劇場で笑いが起こっていた。このひと笑いのために、トムクルさんはパンツ一丁になれるのである。何と器の大きな男だろうか。


 そして『ファイナル・レコニング』の劇中、トムクルさん演じるイーサン・ハントは「前進あるのみ」というセリフを叫ぶ。これはトムクルさん自身のポリシーそのものだ。過去のインタビューを見ると、トムクルさんは常に「振り返らず、前進あるのみ」と語り続けている。ますます映画のイーサンとトムクルさんの境目が曖昧になるが……しかし同時に、前しか見ない姿勢の危うさも彼は理解しているようだ。かつてトムクルさんはこう語っている。「(中略)いつも“挑戦しないこと”と折り合いをつけられない自分がいるんだよ。失敗することを自分に許している。しかしその失敗から学ぶべし……」この言葉の通り、トムクルさんは過去に興行的な失敗、プライベートでの失態を何度も経験している。しかし、転んでもタダでは起きない。トムクルさんはそういう男なのだ。


 トムクルさんには成功も失敗も、明日の糧として受け入れる器がある。そして生きている限り、トムクルさんは映画を作り続けるはずだ。近い将来、またトムクルさんがとんでもない傑作を引っ提げてやってくることは間違いないだろう。



文:加藤よしき

本業のゲームのシナリオを中心に、映画から家の掃除まで、あれこれ書くライターです。リアルサウンド映画部やシネマトゥデイなどで執筆。時おり映画のパンフレットなどでも書きます。単著『読むと元気が出るスターの名言 ハリウッドスーパースター列伝 (星海社新書)』好評発売中。

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作品情報を見る



『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング』

大ヒット上映中

配給:東和ピクチャーズ

©2025 PARAMOUNT PICTURES.

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