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『サスカッチ・サンセット』ビッグフットの知られざる生態がここに!?頭で考えずに本能で味わう”セリフなし”ネイチャームービー

©2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved

『サスカッチ・サンセット』ビッグフットの知られざる生態がここに!?頭で考えずに本能で味わう”セリフなし”ネイチャームービー

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『サスカッチ・サンセット』あらすじ

北米の霧深い森に生きる4頭のサスカッチ。彼らは寝床をつくり、食料を探し、交尾をするといういつもの営みを繰り返しながら、どこかにいると信じる仲間探しの旅を続けている。そして、絶えず変化する世界に直面しながら、生き残りをかけて必死に戦うことになる。果たして彼らが辿る運命とはー



 人は己の理解を超えた不可思議な存在や事象を、「UMA」や「都市伝説」などと呼ぶ。残念ながら私はこれらを目撃したことはまだないが、その代わり夢か幻でも見たかのように「あれは一体なんだったんだ…?」「私たちは何を見させられているのだ…?」と呟かずにいられない映画には、数多く遭遇してきた気がする。


 『サスカッチ・サンセット』(24)という映画をご存知だろうか? 本作はサスカッチ(ビッグフットの別称)の知られざる生態を、四季の移り変わりに合わせて描いたフィクショナルな作品である。この場合、当然ながらサスカッチという被写体がすでにUMAや都市伝説の類(というかど真ん中)にあたるが、それに輪をかけて”本作そのもの”が、かなり奇妙奇天烈というか、序盤の衝撃からラストの余韻に至るまで、どうかしちゃっている。


 これが傑作か珍作なのか自分には分からない。ただ、鑑賞中に幾度も押し寄せてきた胸のざわめきを、内に抱え込むことなく、誰かと共有したい。伝えたい。そんな思いがいま私を本稿へと向かわせている。


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知られざる類人猿の日常とは?



 サスカッチといえば、かねてより伝承や神話として語り継がれてきた存在だが、1960年代にはその姿を初めてカメラに収めた「パターソン・ギムリン・フィルム」なるものが注目を集め、「直立歩行する毛むくじゃらの猿人」という具体的イメージが、愛好家のみならず一般的なレベルにまで広がった。『サスカッチ・サンセット』の監督、ゼルナー兄弟(菊池凛子主演の『トレジャーハンター・クミコ』/14などで知られる)も子供の頃にこの映像に触れ、すっかり虜になった人たちだとか。


 映画は神秘的な朝もやに包まれた森の風景から始まる。ふと気付くと草むらにたたずむ毛むくじゃらの何者かの姿。サスカッチの群れだ。数えてみよう。1、2、3・・・4頭いる。おそらく家族かそれに類する集団なのだろうが、彼らがどこから来て、どこへ向かうのか、詳しいことは何一つわからない。


 かくも大自然の深淵を感じるオープニングを抜けると、次の瞬間に我々が目にするのは、なんとサスカッチが交尾する様子。ギョッとするほどの生々しさだ。まったく、野生の本能というやつは、なんと包み隠さず、剥き出しで、正直なことか。このギャグなのか本気なのかわからない強烈な描写をどう受け止めるかによって、観客の賛否は大きく分かれるに違いない。



『サスカッチ・サンセット』©2023 Cos Mor IV, LLC. All rights reserved


 と同時に、我々は映像の質感や動きから、これが「ネイチャードキュメンタリー」とは一線を画した語り口であると気づく。まずもって周囲に人間の気配が微塵も感じられないし、何者かが意図的にカメラを仕込んでサスカッチを観察しているわけでもなさそうだ。それはさながら「神の視点」とでも呼ぶべきもので、時に彼らの生態を大局的に映し出したかと思うと、今度はグッと接写して彼らの表情や感情にまでしっかり光をあてる。


 人間が登場しない本作には当然ながら、セリフがひとつもない。にもかかわらず、おぼろげに”ストーリー”らしきものが感じられるのは、サスカッチの泣き声、唸り声、怒った表情、怯えた表情、そのほかの身振り手振りによって、驚くほど多くのものが私たちにジワリと伝わってくるからだろう。


 食料や住処のことで苦労し、時には抑えきれない欲望に駆られる。獰猛な動物たちの脅威にさらされ、仲間の死を悼み、かと思えば、新たな生命の誕生を祝福する。さらには歩き続ける先にはたびたび驚きや畏れの対象が待ち受け、まるで『2001年宇宙の旅』(68)でモノリスを前にした猿たちの如く、激しく動揺し、混乱したりもする・・・。


 これはサスカッチとともに人生のあれこれを乗り越えていく映画と言っていい。もしくは彼らの生態を通して浮かび上がるのは、自らが文明化されていると自負しながら実は彼らとなんら変わりのない私たちの姿なのかも。




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