1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ガール・ウィズ・ニードル
  4. 『ガール・ウィズ・ニードル』なぜその針は女性たちを無慈悲に突き刺すのか ※注!ネタバレ含みます
『ガール・ウィズ・ニードル』なぜその針は女性たちを無慈悲に突き刺すのか ※注!ネタバレ含みます

© NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024

『ガール・ウィズ・ニードル』なぜその針は女性たちを無慈悲に突き刺すのか ※注!ネタバレ含みます

PAGES


※本記事は物語の核心に触れているため、映画未見の方はご注意ください。



『ガール・ウィズ・ニードル』あらすじ

第一次世界大戦後のコペンハーゲン。お針子として働くカロリーネは、アパートの家賃が支払えずに困窮していた。やがて勤め先の工場長と恋に落ちるも、身分違いの関係は実らず、彼女は捨てられた挙句に失業してしまう。すでに妊娠していた彼女は、もぐりの養子縁組斡旋所を経営し、望まれない子どもたちの里親探しを支援する女性ダウマと出会う。他に頼れる場所がないカロリーネは乳母の役割を引き受け、二人の間には強い絆が生まれていくが、やがて彼女は知らず知らずのうちに入り込んでしまった悪夢のような真実に直面することになる。


Index


生存権さえ保証されない残酷な資本主義社会



 筆者は、前もって何の知識もインプットせぬままノコノコと試写会に出かけ、見終わってから「こういう映画だったのかいな」とびっくりすることがよくあるのだが、『ガール・ウィズ・ニードル』(24)はまさしくそのような作品だった。


 舞台は、第一次世界大戦後のデンマーク。お針子として働くカロリーネ(ヴィクトーリア・カーメン・ソネ)は、家賃が払えずにアパートを追い出され、工場長のヤアアン(ヨアキム・フェルストロプ)と恋に落ちて子供を身ごもるも、身分違いゆえに結婚が許されず、縫製工場を辞める羽目に。絶望のどん底に落とされた彼女は、やがて望まれない子供たちの里親探しを斡旋するダウマ(トリーネ・デュアホルム)という女性と出会い、乳母として働くことになる…。


 なるほど、この映画は「オリヴァー・ツイスト」や「大いなる遺産」のチャールズ・ディケンズ作品のように、主人公があらゆる苦難を乗り越えていく大河ストーリーなんだなと思っていたら、実はダウマは密かに赤ん坊を殺めていた連続殺人犯で、カロリーネは何も知らないまま、事件の片棒を担いでいたことが明かされる。



『ガール・ウィズ・ニードル』 © NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024


 彼女の正体は、25人の子供を殺害したと言われる実在の殺人犯ダウマ・オウアビュー。筆者は彼女のことを寡聞にして知らなかったのだが、既知の方にとってはとてつもない衝撃だったのではないだろうか。前半の寓話的なトーンから一転して、いきなり現実と接続してしまったのだから。『アングスト/不安』(83)、『ヘンリー』(86)、『モンスター』(03)、『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』(19)といった作品と同じく、本作は実在のシリアル・キラーをモデルにした映画だったのである。


 ここでポイントなのは、ダウマという人物を直接描くのではなく、カロリーネという第三者の目を通して描くという手法を採っていることだ。監督のマグヌス・フォン・ホーンはこう語っている。


 「私たちは、親しみやすい主人公の物語を作りたかった。だから、ダウマを主人公には選びたくなかったのです。私たちはフィクションの世界に入り込み、ダウマに子供を差し出す母親の一人として、主人公の物語を作り上げました。物語には、彼女が生きる世界の社会的な側面がたくさん描かれていて、それが彼女を困難な立場に追い込み、ダウマのところに行き着かせる理由になっています」(*1)


 充実した教育システムと社会保障制度が整備され、貧困率が非常に低いデンマークは、世界的に幸福度が高い国として知られている。だが時計の針を100年前に戻せば、この“幸せの国”にも暗黒の時代が存在した。『ガール・ウィズ・ニードル』が暴き出すのは、生存権さえ保証されない残酷な資本主義社会なのである。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
counter
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. ガール・ウィズ・ニードル
  4. 『ガール・ウィズ・ニードル』なぜその針は女性たちを無慈悲に突き刺すのか ※注!ネタバレ含みます