
© NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024
『ガール・ウィズ・ニードル』なぜその針は女性たちを無慈悲に突き刺すのか ※注!ネタバレ含みます
2025.05.20
『サブスタンス』、『ノスフェラトゥ』との共鳴
日本で『ガール・ウィズ・ニードル』が封切りされた5月16日には、コラリー・ファルジャ監督の『サブスタンス』(24)、ロバート・エガース監督の『ノスフェラトゥ』(24)も公開されている。
有害な男性性によるエイジズム/ルッキズムを、ボディ・ホラーという形式で昇華した『サブスタンス』。F・W・ムルナウによるゴシック・ロマンスホラーの古典を現代に蘇らせた『ノスフェラトゥ』。古典主義と現代的意匠を組み合わせて、社会の軋みを描く『ガール・ウィズ・ニードル』。テイストが全く異なる3本の映画だが、実は根っこで繋がっている。どの作品も、女性の身体が傷つけられる物語なのだ。
『ガール・ウィズ・ニードル』 © NORDISK FILM PRODUCTION / LAVA FILMS / NORDISK FILM PRODUCTION SVERIGE 2024
『サブスタンス』で描かれるのは、エクササイズ番組をクビになったかつてのスター女優が新しい再生医療に手を出し、若く美しい“もう一人の自分”を産み出すという、最高にぶっ飛んだプロット。彼女の身体は徹底的に商品化され、客体化され、やがて文字通りの意味で破壊されていく。
『ノスフェラトゥ』では、“悪魔を愛する者”という古典主義的テーマが提示され、世界を災厄から救うために女性が自らの肉体を捧げる。そして『ガール・ウィズ・ニードル』には、大衆浴場でカロリンが陰部に裁縫針を突き立てるというシーンが登場する。子供を育てる経済的余裕がない彼女は、自分を傷つけることでしか状況を打開できない。まるで前もって示し合わせたかのように、この3本は共鳴し合っている。
『サブスタンス』はデヴィッド・クローネンバーグ、ジョン・カーペンター、スタンリー・キューブリック。『ノスフェラトゥ』はF・W・ムルナウ、カール・テオドア・ドライヤー。『ガール・ウィズ・ニードル』はトッド・ブラウニング、リュミエール兄弟。偉大なる過去の遺産を分かりやすくリファレンスしているのも、共通項として挙げられるだろう。
芸術の世界で、特定のテーマが同時多発的に描かれることは少なくない。だが筆者個人としては、日本で同日公開された3本のホラー映画(『ガール・ウィズ・ニードル』をホラー映画というジャンルに括ってしまうのも正直乱暴だとは思うが、少なくともドイツ表現主義のホラー映画を意識している意味で)が、全く異なるアプローチで同趣の主題が扱われていることに、密かな感動を覚える。彼女/彼らは、自分たちの作家性をフルに発揮して、映画的ムーヴメントを巻き起こそうとしている。
『ガール・ウィズ・ニードル』の公式サイトには、コラリー・ファルジャの「これほどまでに力強く、斬新に描かれた女性達のストーリーは今まであまりありませんでした。大好きな作品です」、ロバート・エガースの「繊細で力強く、感動的」というコメントが寄せられている。これはもう連帯の証と受け止めていいのではないだろうか。生まれた国も生まれた年も異なるクリエイターたちの、共同声明として。
(*1)(*2)https://seventh-row.com/2024/12/11/interview-magnus-von-horn-girl-with-the-needle/
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
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『ガール・ウィズ・ニードル』
配給:トランスフォーマー
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷ホワイト シネクイントほか全国公開中
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