
©2024 The Apartment S.r.l., FremantleMedia North America, Inc., Frenesy Film Company S.r.l.
『クィア/QUEER』ルカ・グァダニーノとダニエル・クレイグが描く、中年放浪者の孤独と悲哀
『クィア/QUEER』あらすじ
1950年代、メキシコシティ。退屈な日々を酒や薬でごまかしていたアメリカ人駐在員のウィリアム・リーは、若く美しくミステリアスな青年ユージーン・アラートンと出会う。一目で恋に落ちるリー。乾ききった心がユージーンを渇望し、ユージーンもそれに気まぐれに応えるが、求めれば求めるほど募るのは孤独ばかり。リーは一緒に人生を変える奇跡の体験をしようと、ユージーンを幻想的な南米への旅へと誘い出すが──。
Index
ウィリアム・バロウズの小説の映画化
ウィリアム・バロウズは1950年に出現したビート派の作家の中心的な人物のひとり。「吠える」で知られる詩人のアレン・ギンズバーグや「路上」のジャック・ケルアックらと並び、当時の保守的な既成概念を打ち破る放浪のアーティストとして登場。特に1959年の「裸のランチ」はバロウズの評価を決定づける作品となった。
彼の作品は決して分かりやすい内容ではなく、しばしば、“難解”と形容されてきた。意識の流れを扱った作品も多く、読み人によって解釈が異なる内容だろう。
「クィア」は彼が無名でメキシコ在住だった1951年に原稿を書き始めた(完成は53年とされる)。ただ、出版されたのは1985年である。ゲイのラブストーリーでもあったので、こうした内容が注目を浴びるような時代に出版が実現したのだ。
ただ、ウェブ・マガジン、‘Vacation’(2024年11月22日号)の記事では、バロウズ自身はLGBTQ的なコミュニティと距離をとりたがり、「これまでの人生において、ゲイだったことは一度もない。こうしたコミュニティとは何の関係もない」とあえて語っている。
彼に影響を受けた人々には、ジョン・ウォーターズ、デイヴィッド・ボウイ、パティ・スミス、カート・コバーンらもいる(コバーンとは交流もあった)。
映画ファンには『ドラッグストア・カウボーイ』(89、ガス・ヴァン・サント監督)の脇役男優としても記憶されているはずだ。ドラッグ好きの神父役で、セリフは棒読みながらも、奇妙な存在感があった。
『クィア/QUEER』©2024 The Apartment S.r.l., FremantleMedia North America, Inc., Frenesy Film Company S.r.l.
「クィア」はメキシコシティに住むアメリカの放浪者、ウィリアム・リーの物語で、バロウズの自伝的な内容といわれる。ジャンキーで、同性愛者の彼は、夜になるとバーで酒をあおるのが日課になっている。欲望のまま、見知らぬ男性と一夜限りの関係に走ることもあるが、心の底では、自分が愛せる人物を探している。彼はユージーン・アラートンという元GIだった美しい青年にほれ込む。リーとアラートンの関係を軸にし、後半ではふたりの南米への旅が描かれる。
映画版の監督は『君の名前で僕を呼んで』(17)や『チャレンジャーズ』(24)のイタリア出身の才人、ルカ・グァダニーノ。いま、一番勢いのある監督のひとりだろう。彼自身は「人間の欲望を描くことに興味がある」と言っているが、人間関係の複雑さ、愛と孤独、性のアイデンティティなどをテーマにするのが得意で、キャスティングや映像、音楽の使い方でも独特の美意識を見せる。
職人的な腕を持つ商業監督ながら、自身の世界観も作り上げ、その映像にはイタリア的な甘美な官能性もあふれる。彼はティーンの時に「クィア」を読んだ時から映画化を夢見ていたというが、それが遂にダニエル・クレイグ主演で実現したのだ。