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『クィア/QUEER』ルカ・グァダニーノとダニエル・クレイグが描く、中年放浪者の孤独と悲哀

©2024 The Apartment S.r.l., FremantleMedia North America, Inc., Frenesy Film Company S.r.l.

『クィア/QUEER』ルカ・グァダニーノとダニエル・クレイグが描く、中年放浪者の孤独と悲哀

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ダニエル・クレイグの先祖帰り的な人物像



 クレイグといえば、今ではすっかりボンド・シリーズ(06~21)や『ナイブズ・アウト』シリーズ(19~)の探偵、ブノワ・ブラン役で知られている。ただ、今回の映画は、彼にとっての新機軸ではなく、むしろ先祖帰り的な役に思える。初期の作品『愛の悪魔』(98)でも、ゲイの男性を演じていたからだ。


 主人公は英国の異端の画家、フランシス・ベーコンで、ゲイの彼は家に泥棒として入ってきた若い青年に興味を持ち、彼を愛人にする。彼はベーコンの絵のモデルもつとめるが、最後は悲劇的な結末を迎える。


 ベーコン役は英国のベテラン男優、デレク・ジャコビで、若い愛人役がクレイグだった。当時の彼は、まだ未知数の新人。しかし、その演技はとても心に残った。監督だったジョン・メイブリーの幻想的で先鋭的な演出、坂本龍一のリリカルな音楽も印象的だ(今ほど有名ではなかったティルダ・スウィントンも出演)。


 その後、クレイグは後にボンド・シリーズで組むことになるサム・メンデス監督のクライム映画『ロード・トゥ・パーディション』(02)でギャングのボスの息子役を演じ、『シルヴィア』(03)では英国の有名な詩人・作家のテッド・ヒューズ役。プレイボーイの彼は同じく詩人である妻、シルヴィア・プラスを追いつめていく。また、イアン・マキューアン原作の『Jの悲劇』(04)では大学教授役で、男のストーカー(リス・エヴァンス)に追いつめられる姿が印象に残った。


かつては渋い演技派のイメージが強かったので、ボンド役に抜擢された時は驚いたが、ボンド映画では持ち前の演技力を武器に新境地を切り開き、リアルなボンド像が絶賛された。



『クィア/QUEER』©2024 The Apartment S.r.l., FremantleMedia North America, Inc., Frenesy Film Company S.r.l.


 そんな彼は今回の『クィア』で、再び渋い演技派としてスクリーンに戻ってきたのだ。『愛の悪魔』では、中年の画家ベーコンとの関係に苦悩するゲイの青年だったが、今度は自身が若い青年にひかれる中年男の役。初期の主演作の設定を逆にした設定になっているところが興味深い


 実は、生前バロウズは画家のベーコンと交流があり、リバイバル上映された異色ドキュメンタリー『バロウズ』(83、ハワード・ブルックナー監督)には、ベーコンとバロウズが語り合う場面が出てくる(蛇足ながら、30代で亡くなったブルックナーに取材経験がある筆者としては、この貴重な映画のリバイバル上映をうれしく思った)。


 かつてベーコンを描いた映画に出演していたクレイグが、今度はバロウズの映画に主演。なんとも、奇妙な因縁も感じさせる。




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