
©2024 The Apartment S.r.l., FremantleMedia North America, Inc., Frenesy Film Company S.r.l.
『クィア/QUEER』ルカ・グァダニーノとダニエル・クレイグが描く、中年放浪者の孤独と悲哀
愛の困難さと複雑さを見つめる
今年の2月、ズームでクレイグ自身に今回の新作に関して取材することができた。その時、初期の『愛の悪魔』や『シルヴィア』、『Jの悲劇』などと比較して、今回の新作の話をした。
「今回の映画でも初期のこうした作品同様、愛の複雑さが描かれていましたね」とたずねると、こんな答えを返してきた――「これ以上に大切なテーマは他にないんじゃないかな。僕は作品を通じて愛の本質や痛みや美しさも感じてほしいと思うことがある。人々は本能につき動かされて、愛に走ることもあるだろう。でも、それだけではなく、人間同士の精神的な絆についても考えている。そして、そんな部分にふれた映画こそが、私が作品作りに求めていることだ」
クレイグ自身もバロウズ作品に興味があり、グァダニーノとは20年前から知り合いで、いつか一緒に映画を作りたいと考えていたそうだ。「彼は既成の枠にとらわれず、広い心で仕事に向き合う」と言っていた。取材中のクレイグは、ひじょうに温かい人間力にあふれた人物に思えた。
今回の好演でクレイグはナショナル・ボード・オブ・レビューの主演男優賞を獲得し、ゴールデン・グローブ賞のドラマ部門の主演男優賞候補にもなっている。
『クィア/QUEER』©2024 The Apartment S.r.l., FremantleMedia North America, Inc., Frenesy Film Company S.r.l.
グァダニーノ自身はダニエルのことをこうコメントしている――「彼はすごいパフォーマーで、素晴らしい表現者だ。恐れずに難役にも挑む力を持っている。今回は、バロウズにロマンティックなやり方でオマージュを捧げたい、という方向で意見が一致した。彼はリーの内面に潜むものをじっくりと見せていく。その結果、愛を求める男の苦悩を感動的な演技で表現できたのだと思う」
グァダニーノは初めて「クィア」を読んだ時のことを振り返る――「当時、感じていたことに通じる部分があった。自分自身の心を映し出せる人物との出会いを求めていたからだ。それまで気づかなかった自分の深い部分とつながれる相手との関係だ」(グァダニーノの発言は‘Vacationer’24年11月22日の記事より引用)
映画では、主人公ふたりが幻覚症状を誘発する幻の植物を求めて、南米のジャングルを訪ね、奇妙なコッター博士(『ファントム・スレッド』のカメレオン女優、レスリー・マンヴィルが怪演)と出会う場面が、後半のクライマックスとなる。その後、小説にはない愛と死をめぐる独自のエピローグも加えられ、この監督のロマンティックな資質がうかがえる展開になっている(見終わった後、深い余韻が残る)。