2025.06.02
トム・クルーズが映像使用を許可
『テルマがゆく!』でテルマが自宅でダニーと一緒に観ている映画は『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』(18)。トム・クルーズのイーサン・ハントがビルの屋上から隣のビルへとジャンプしながら駆け抜けていくシーン(撮影中にトムが実際に骨折したシーン)を目にしたテルマが「これはスタントマンよね?」と話すと、ダニーは「いや本当に彼がやってる」と説明する。その会話が布石となり、詐欺に遭ったテルマが「自分で何とか取り返す」という気持ちに繋がっていく。詐欺で意気消沈する彼女が、たまたまトム・クルーズの写真と「ミッションはポッシブル(可能)」の見出しの新聞記事を見つけ、背中を押される。このように93歳のリベンジを描いた『テルマがゆく!』は、まさに「ミッション:インポッシブル」を地で行く物語だと受け止めることが可能だ。
ただし実際に『ミッション:インポッシブル』の映像や、トム・クルーズの写真を使用するには許可が必要。該当シーンを撮影する段階でまだその許可は下りておらず、フレッド・ヘッキンジャーによると「許可されなかった場合に備え、セリフを変えて再撮影も考えていた」とのこと。しかしそこから2週間後、トム・クルーズが承認した知らせが届き、現場は「クリスマスのように全員が歓声を上げた」とフレッド。そのトム・クルーズへの感謝は、エンドクレジットに記されることになった。
『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』© Courtesy of Universal Pictures
「ミッション:インポッシブル」シリーズは、回を追うごとにトム・クルーズのスタントの危険度が上昇。しかしさすがに年齢とともに“限界”も訪れるだろう。しかし年齢での限界に反し、「ミッション」は「ポッシブル」と捉える『テルマがゆく!』では、93歳のジューン・スキッブは当初スタントダブルに任す予定だった電動スクーターでのアクションなどを「これくらいだったら自分でやれる」と代役ナシで挑戦。スクーターを運転するのも、その時が人生初だったという。95歳の時点でジューンは「いつか西部劇に出るのが夢。乗馬の経験はあるけど、もう一度乗るには訓練も必要ね」と衰えない野心を告白する。このあたりのチャレンジ精神が、トム・クルーズに近いのかもしれず、トムもジューンを“同志”と感じて映像使用を快諾したのかも……などと『テルマがゆく!』を観れば想像が膨らむのではないか。
2025年、『テルマがゆく!』の日本公開を前に、ジューン・スキッブは「いま人生でいちばん幸せな時期にいる」と満足げに語った。世の中の健康寿命が長くなり、年齢の高い主人公の映画やドラマの需要が増えることで、ジューンのような俳優の仕事も増えていくだろう。そこに主人公の子供、あるいは孫の視点が入ってくることで、世代を超えて楽しめる作品が誕生する。そんな事実を『テルマがゆく!』は教えてくれる。
文:斉藤博昭
1997年にフリーとなり、映画誌、劇場パンフレット、映画サイトなどさまざまな媒体に映画レビュー、インタビュー記事を寄稿。Yahoo!ニュースでコラムを随時更新中。クリティックス・チョイス・アワードに投票する同協会(CCA)会員。
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『テルマがゆく! 93歳のやさしいリベンジ』
6月6日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
配給:パルコ ユニバーサル映画
© Courtesy of Universal Pictures