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『We Live in Time この時を生きて』10年間の軌跡を綴った非線形のラブストーリー

© 2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION

『We Live in Time この時を生きて』10年間の軌跡を綴った非線形のラブストーリー

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トビアスの記憶のなかに飛び込む 



 この映画は、大きく分けて3つの時間軸で構成されている。


①交通事故がきっかけで、シリアル会社に勤務するトビアス(アンドリュー・ガーフィールド)と、レストランオーナー兼シェフとして新しい人生を踏み出したばかりのアルムート(フローレンス・ピュー)が出会い、やがて恋に落ちる。


②一緒に暮らし始めた二人。アルムートはがんを乗り越え、大晦日の夜にガソリンスタンドのトイレで女の子を出産する。


③一度は寛解したがんが再発したアルムート。しかし彼女は治療ではなく、病を押して料理コンクールに出場することを選択する。


 正直言って、親切設計な映画ではない。「20XX年 X月X日」というキャプションが表示される訳ではないから、いま目撃しているのは①②③のどの時間軸なのか、戸惑ってしまうこともしばしば。二人の距離感やアルムートの髪型、彼女の妊娠による肉体的変化や、娘がいる/いないを手がかりにして、我々は状況を理解するしかない。そして、この極めて特異な語りを採用することで、本作はいわゆる“難病恋愛もの”の定型から抜け出すことに成功している。脚本を務めたニック・ペインの発言を引用してみよう。



『We Live in Time この時を生きて』© 2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION


 「物語を直線的に展開したくなかったんだ。悲劇にしたくなかったし、登場人物も悲劇的なキャラクターとして描きたくなかった。だから、時系列にとらわれず物語を語ろうと決めたとき、映画の最も悲劇的なパートのすぐそばに、本当に馬鹿げた出来事を並べることができると感じたんだ」(*1)


 もしこの映画が、①出会い、②出産、③がんの再発という時系列通りだったら、アルムートが料理コンクールに挑戦するという前向きなテーマを内包しているにせよ、物語が悲劇に向かっていくことは避けられない。だからこそニック・ペインは、喜びと哀しみが交互に押し寄せるような作劇を用いることで、どこか柔らかさを感じさせるタッチに仕上げたのだ。ジョン・クローリー監督も、その効果についてこう語っている。


 「多くの難病映画は、健康な状態からそうでない状態へと一直線に進む傾向がある。(中略)重要なのは、死がやってきて肩を叩いたあと、二人が残された時間をどう有意義なものにするかということなんだ」(*2)


 それはどこか、記憶に似ている。我々が誰か大切な人を想い出すとき、それは決して時系列順にはアウトプットされない。断片化されたバラバラな記憶がアットランダムにチャプター化され、在りし日の映像を再生する。時間の不可逆性から解放された『We Live in Time この時を生きて』は、まるでトビアスの記憶のなかに飛び込んだような手触りがあるのだ。





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