
© 2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION
『We Live in Time この時を生きて』10年間の軌跡を綴った非線形のラブストーリー
2025.06.03
キュビズムのような語り口
「(映画を)観終わるころには、6つの視点から同時に何かを見たような、まるでキュビズムの絵画を見たような気分になってほしい」(*3)とジョン・クローリー監督は語っている。キュビズム(立方体主義)とは、パブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックが中心となって推し進めた、20世紀初頭の芸術運動。あるモチーフを複数の視点から再構築し、幾何学的に平面化させることで、奥行きが失われていく。
この“奥行きがない”感覚は、確かに『We Live in Time この時を生きて』の非線形な語りに酷似している。この映画も、複数の時間軸で物語を構築することで、前後関係が希薄化し、時間感覚が失われていく。そして、<いま>という瞬間だけが活き活きと躍動する。我々がスクリーンで目撃するのは、過去のフラッシュバックではない。未来のフラッシュフォワードでもない。常に<いま>なのだ。
がんが再発したアルムートは、「時間だけを浪費する治療には興味がない」と言い切っている。彼女にとって、時間を未来へと拡張させることや、過去を思い出して感傷に浸ることは重要ではない。大切なのは<いま>を生きること。この映画は、キュビズムのような語り口にすることによって、“難病恋愛もの”の定型から脱却することのみならず、アルムートの生き方そのものを浮かび上がらせている。
『We Live in Time この時を生きて』© 2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION
映画というメディアには、刻々と過ぎていく時間のなかで、<いま>をキャプチャする機能がある。つまりアルムートとトビアスは、映画のなかで、<いま>を永遠に生き続けることができる。英語版のポスターには、「Every minute counts.」というコピーが踊っているが、これを日本語に訳せば、「一分一秒が大切」、「わずかの時間も惜しむ」ということになるだろう。時間は有限。だから一刻も無駄にはできない。もちろんその通りなのだけれど、「Every minute counts.」という現実の時間感覚に対して、それでも二人は「We Live in Time」=時間のなかで生きることができるからこそ、我々は第七芸術の“CINEMA”に感動を覚えるのだ。
ジョン・クローリーは、尊敬する映画監督にニコラス・ローグの名前を挙げている。『赤い影』(73)や『ジェラシー』(80)などの作品で知られる、異能のビジュアリスト。彼が編集室で発言したとされる「すべての時間はいつでも利用できる」という言葉を、ジョン・クローリーは大切にしているという。まさにノンリニア的ストーリーテリング宣言。その精神が、確実に『We Live in Time この時を生きて』にも息づいている。
(*1)https://www.youtube.com/watch?v=yK41-9QvjeU
(*2)(*3)https://www.backstage.com/magazine/article/we-live-in-time-director-interview-john-crowley-77848/
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
『We Live in Time この時を生きて』を今すぐ予約する↓
『We Live in Time この時を生きて』
6月6日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
配給:キノフィルムズ
© 2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION