1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 国宝
  4. 『国宝』800ページの原作と175分の映画。その比較も愉しい本年度最大の話題作
『国宝』800ページの原作と175分の映画。その比較も愉しい本年度最大の話題作

©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会

『国宝』800ページの原作と175分の映画。その比較も愉しい本年度最大の話題作

PAGES


挿入される人気演目の数々



 『国宝』の原作は上下巻合わせて800ページを超える長編だ。『国宝(上)青春篇』は、1960年代の長崎で幕を開ける。任侠一家の跡取り息子である喜久雄が芸の才能を見込まれ、上方歌舞伎の名門、花井家に住み込みで修行開始。そこで同じく役者を目指す花井半二郎の息子、俊介と出会い、二人は次第にライバルとして切磋琢磨していく。その過程で喜久雄は歌舞伎界のしきたりや嫉妬に苦しむが、幼馴染の春江や家族との関係が心のよりどころとなる。


 続く『国宝(下)花道篇』では、歌舞伎役者としてさらなる高みを目指す喜久雄が、一旦は目の前から姿を消した俊介との再会や、恩師、半二郎との別れ、病との闘いやスキャンダルを超えて、苦悩や孤独と引き換えに人間国宝に選ばれるまでが綴られる。吉田修一が意識して使ったという、”です”ではなく”でございます”という文体が、いかにも歌舞伎の世界に相応しく、読者を別世界へと誘っていく。


 文中には『仮名手本忠臣蔵 第11段目 討ち入り』、立女形(女形のトップ)小野川万菊が演じる『隅田川』、喜久雄と俊介が艶やかに競演する『二人道成寺』、2人の運命を分けることになる近松門左衛門の代表作『曽根崎心中』等が、ストーリーにリンクする形で取り上げられる。結果、読者は否が応でも読みながら歌舞伎の世界を体感、勉強することになる。それは原作の大きな魅力の一つでもある。



『国宝』©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会



原作との微妙な違いがもたらしたもの



 とはいえ上下巻を比較すると、怒涛の展開が飽きさせない上巻に比べて下巻はややペースが鈍るという評価が散見されるのも確か。この長編を上映時間175分の映画にまとめたのが脚本家の奥寺佐渡子だ。『八日目の蝉』(11)や『コーヒーが冷めないうちに』(18)等、話題の小説を巧みに脚色するのが得意な奥寺は、喜久雄の人生により強くフォーカスするため、原作に描かれているいくつかのエピソードを削除。その最たるものは少年時代から喜久雄に寄り添い献身を捧げる徳次の扱いだが、これに関しては是非原作と映画を比較した上で判断していただきたい。


 奥寺の脚本は上巻と下巻に分かれていた物語をシームレスに繋いでいて、少なくとも3時間近い長さはあまり感じさせない。冒頭のバイオレンスシーンに始まり、歌舞伎の真髄と喜久雄の成長、感極まる大詰めへと至る李相日の演出にも隙はない。





PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. 映画
  3. 国宝
  4. 『国宝』800ページの原作と175分の映画。その比較も愉しい本年度最大の話題作