1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『流浪の月』李相日監督 日々求められる数多の判断、最終的に頼るものとは【Director’s Interview Vol.206】
『流浪の月』李相日監督 日々求められる数多の判断、最終的に頼るものとは【Director’s Interview Vol.206】

『流浪の月』李相日監督 日々求められる数多の判断、最終的に頼るものとは【Director’s Interview Vol.206】

PAGES


フラガール』(06)『悪人』(10)『怒り』(16)など、数々の傑作を手掛けてきた李相日監督。実に6年ぶりの新作である『流浪の月』が公開を迎えた。人間の本質に迫る李監督の手腕は相変わらず見事だが、今作ではこれまでの作品に見られた重厚なリアリティは抑制され、新たな一面を感じさせる作りとなっている。撮影監督に『バーニング 劇場版』(18)『パラサイト 半地下の家族』(19)を手掛けたホン・ギョンピョを迎えたことも、その新たな世界の一翼を担っているだろう。


6年ぶりの新作に李監督は如何に対峙してきたのか? こちらが投げかけた質問に対し、李監督は非常に穏やかな口調で、時に思索しながら丁寧に言葉を発してくれた。



『流浪の月』あらすじ

帰れない事情を抱えた少女・更紗(さらさ)と、彼女を家に招き入れた孤独な大学生・文(ふみ)。居場所を見つけた幸せを噛みしめたその夏の終わり、文は「誘拐犯」、更紗は「被害女児」となった。15年後。偶然の再会を遂げたふたり。それぞれの隣には現在の恋人、亮と谷がいた。


Index


寓話性を生かす



Q:前作『怒り』から6年が経ちます。本作『流浪の月』の映画化が決まるまでの4〜5年の間、次回作についてどのような思いをお持ちでしたか?


李:僕が映画を志したときの目標値みたいなものがあるとすれば、一つの到達点が『怒り』だった気がします。俗に言う「一周した感じ」がして、次はどこに向かっていけば良いのか、さまよう感覚もありました。もちろん観る側のハードルも上がるでしょうし、自分自身が袋小路に入ってしまったような状態でした。


そんな中でも、進めていた企画はいくつかあったのですが、コロナの関係等で撮影まで至りませんでした。その状況下で出会ったのが、この原作「流浪の月」です。人生に停滞はつきものですが、どこか燻ってもいたぶん、この作品に関しては、読んでから映画化したいと思うまでにそれほど時間はかかりませんでした。



『流浪の月』(c)2022「流浪の月」製作委員会


Q:原作を読んで映画化したいと思ったポイントは何だったのでしょう?


李:小説のトーンや色合いみたいなものは、僕がこれまでに手がけた映画とは違いますが、描かれているテーマは通底していると感じました。思い込みに基づく人の善意が当事者を傷つけ苦しめる。人は誰しも自分の常識に疑いを持たない。現代を鋭く見据えた小説でした。主人公二人の関係性は実人生ではなかなか見ることのできないものですが、魂と魂のつながりといっても過言ではない。素直に、映画で描きたいと思わされました。


Q:本作は、李監督のこれまでの作品にあった圧倒的なリアリティが抑制されて、寓話性が前に出ていた印象がありました。ご自身の意識の中で変化はあったのでしょうか。

 

李:そうですね。この原作を自分の生理だけで覆ってしまうと、より過酷で痛々しくなってしまうかもしれず、その辺りは気をつけました。


更紗と文の関係性に対して、「こんなのあり得るのか」という冷静な見方と「この純粋さが存在し得るのなら、世界はすごく美しい場所なのではないか」という両方を感じました。今回は迷わず後者の方に賭けてみた。二人を全面的に肯定しよう、と。過酷な現実があるからこそ、対比としての寓話性を生かすことで更紗と文の真実に迫れる予感がしました。




PAGES

この記事をシェア

メールマガジン登録
counter
  1. CINEMORE(シネモア)
  2. Director‘s Interview
  3. 『流浪の月』李相日監督 日々求められる数多の判断、最終的に頼るものとは【Director’s Interview Vol.206】