『罪人たち』ブルースが悪魔を召喚して時空の扉を開く、マッシュアップ・ブラックムービー　※注！ネタバレ含みます

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2025.06.25竹島ルイ

※本記事は物語の結末に触れているため、映画未見の方はご注意ください。

『罪人たち』あらすじ

1930年代の信仰深いアメリカ南部の田舎町。双子の兄弟スモークとスタックは、かつての故郷で一攫千金の夢を賭けた商売を計画する。それは、当時禁じられていた酒や音楽をふるまう、この世の欲望を詰め込んだようなダンスホールだった。オープン初日の夜、多くの客たちが宴に熱狂する。ある招かざる者たちが現れるまでは…。最高の歓喜は、一瞬にして理不尽な絶望にのみ込まれ、人知を超えた狂乱の幕が開ける。果たして兄弟は、夜明けまで、生き残ることが出来るのか――。

Index

自分のルーツを照らす光

　かつてブルースは、悪魔の音楽と呼ばれていた。

　奴隷制度時代の労働歌にルーツを持つこのジャンルは、19世紀後半のアメリカ南部で、黒人の感情を表現する音楽として誕生。日々の生活の苦しみや、愛と官能を歌い上げるも、道徳や倫理を規範とする敬虔なキリスト教徒から「世俗的すぎる！」と非難され、迫害を受ける。

　その独特なリズムやシンコペーション、ブルーノート・スケールで展開されるコード進行も、当時の“良識ある人々”にはまったく理解されなかった。並外れたギターの腕を手に入れるため、真夜中の十字路で悪魔に魂を売ったというロバート・ジョンソンの伝説も、ブルース＝悪魔の音楽という偏見に拍車をかけてしまう（ちなみにブルースの語源は、憂鬱という意味のBlue Devilsに由来している）。

　しかしながら、今やブルースはアメリカ音楽の母と見なされている。12小節のコード進行とブルーノート・スケールはジャズに大きな影響を与え、ブルースにファンクやソウルミュージックの要素を加えることで、R&Bが発展した。ブルース界の巨人マディ・ウォーターズは、「The Blues Had a Baby and They Named It Rock and Roll」（ブルースは赤ん坊を生み、その子をロックンロールと名付けた）と歌っている。ブルースはジャズ／R&B／ロックの大きな礎となったのだ。

　ライアン・クーグラー監督も、小さい頃ブルースを聴いて育った。叔父が古いデルタ・ブルースのレコードをかけながら、生まれ育ったミシシッピの話をしてくれたという。ライアン・クーグラー自身はカリフォルニア州オークランド出身だが、母方の祖父がかつて暮らしていたこともあり、そのルーツはミシシッピにある。

　『クリードチャンプを継ぐ男』（15）でクリードが偉大な父アポロの姿を幻視する瞬間や、『ブラックパンサー』（18）でティ・チャラが父である先代国王ティ・チャカを回想するシーンを例に挙げるまでもなく、ライアン・クーグラーはそのフィルモグラフィーのなかで、常に親子の繋がりを、家族のルーツを描いてきた。そして、ミシシッピを舞台にデルタ・ブルースが響き渡る最新作『罪人たち』（25）では、自分自身のルーツに光を照らしている。

　時は1932年。シカゴでアル・カポネの下で働いていたスモークとスタックの兄弟（マイケル・B・ジョーダンの二役）は、故郷ミシシッピに舞い戻り、従兄弟でギタリスト志望のサミー（マイルズ・ケイトン）、ピアニストのデルタ・スリム（デルロイ・リンドー）、小さな食料雑貨店を営むグレース（リー・ジュン・リー）とボー（ヤオ）の中国人夫婦をスカウトして、ダンスホールをオープンさせる。

　すると、賑やかな音楽に引き寄せられるように、なぜかヴァンパイアたちが出現。いきなり、ロバート・ロドリゲス監督の『フロム・ダスク・ティル・ドーン』（96）的展開に突入する（監督本人もこの映画に影響を受けたことを明言している）。『罪人たち』は人種差別問題を扱った社会派映画であり、ブルースの演奏シーンが頻繁にインサートされる音楽映画であり、吸血鬼との戦いを描いたアクション・ホラー映画なのだ。

次々と反転する二項対立

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