
© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED. IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema® is a registered trademark of Dolby Laboratories
『罪人たち』ブルースが悪魔を召喚して時空の扉を開く、マッシュアップ・ブラックムービー ※注!ネタバレ含みます
クロスオーヴァーする映画ジャンル、音楽
ライアン・クーグラーは、人類=正義、吸血鬼=悪という二項対立すら反転してみせる。我々が住む現実世界と対照的に、ヴァンパイアが跋扈する世界には差別が存在しない。首を噛まれて夜の住人となった彼ら/彼女らは、肌の色も性別も年齢も関係なく、究極の理想世界を目指して、さらに多くの仲間を求めていく。ヴァンパイアたちが、アイルランド民謡「ロッキーロード・トゥ・ダブリン」を歌い踊るシーンはとても象徴的だ。白人も、黒人も、アジア人も、みんな楽しそうに身体を揺らしている。
現世では結ばれなかった男女も、人間ならざる世界では愛を成就させている。ギャングに狙われていたスタックは、愛するメアリー(ヘイリー・スタインフェルド)に危害が及ぶことを心配し、距離を置いていた。いまだに彼のことを想い続けているメアリーは、彼の行動に納得がいかない。
愛し合っているにも関わらず、いや、愛しているがゆえに、結ばれない二人。だが彼らは、ヴァンパイアになることで不老不死となり、ギャングを恐れる必要もなく、永遠の愛を誓う。ここには、死の向こう側に差別のない世界があり、愛の成就があるという、価値の転換がある。
生と死という二項対立を飛び越えるだけでなく、この映画は時間も超越する。物語の中盤でサミーが「I Lied to You」を演奏し始めると、過去〜未来を結ぶ時空の扉が開いて、エレキギターを掻き鳴らすロック・ミュージシャン、ターンテーブルを回すDJ、民族衣装に身を包んだダンサーが召喚され、ブルース/ロック/ゴスペル/ヒップホップがクロスオーヴァーする。音楽映画としての『罪人たち』が、最も高揚する瞬間だ。
『罪人たち』© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED. IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema® is a registered trademark of Dolby Laboratories
そしてラストにも、大きなサプライズが用意されていた。時代は90年代へと一気にジャンプし、すっかり年老いたサミーがクラブで演奏している。演じているのはブルースの伝説的ギタリスト、バディ・ガイ。そして彼の元を訪れたスタックとメアリーに向かって、「Travelin'」を披露する。
Travelin'
I don't know why in the hell I'm here
旅をしている
どうしてここにいるのかは分からないけど
実はマイルズ・ケイトンが演じる青年時代のサミーは、この曲を
Travelin'
I don't know why in the world I'm here
と歌っている(hellとworldの歌詞が入れ替わっている)。この世界(world)が地獄(hell)になってしまったことを知ったうえで、老サミーはヴァンパイアになることを拒否したのかもしれない。それは、いまだに人種差別が続いていることの暗示とも受け止められる。そしてTravelin'=(旅路)とは、差別にあえいできた黒人の闘争の日々であり、サミーが歩んできた人生であり、ブルースが紡いできた音楽の歴史であり、ライアン・クーグラーのルーツを辿る旅といえるだろう。
社会派映画/音楽映画/アクション・ホラー映画を繋ぎ、ブルース/ロック/ゴスペル/ヒップホップを繋ぎ、二項対立を反転させるという荒技を繰り出すことで、『罪人たち』は最強のマッシュアップ・ブラックムービーに仕上がっている。
テーマやモチーフがここまで何重にも折り重なった映画は、近年でも稀だろう。我々が『罪人たち』を味わい尽くすには、まだまだ時間が必要だ。
文:竹島ルイ
映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。
『罪人たち』を今すぐ予約する↓
『罪人たち』
公開中
配給:ワーナー・ブラザース映画
© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.
IMAX® is a registered trademark of IMAX Corporation. Dolby Cinema® is a registered trademark of Dolby Laboratories