2025.07.02
妻帯者となったイーサンの家庭の危機、そして世界の危機
ミッションの一方で、興味深いのはイーサンのプライベートがシリーズのどの作品よりも濃厚に描かれていることだ。序盤では婚約者ジュリアとの関係は円満で、それが一線から退いた理由のひとつであることも示唆される。IMFが極秘組織であることから、彼はジュリアにさえ本当の職業を明かしていないが、留守が多くなれば疑惑も生じる。イーサンが示した誠意は、「僕を信じて欲しい」と訴えプロポーズすること。そう、本作はシリーズの中で唯一、イーサンが妻帯者となった映画でもある。
後半、デイヴィアンがジュリアを人質に取って、イーサンに“ラビットフット”の強奪を強要することから、ラブストーリーはミッションのスリルと絡み合っていく。前作『M:I-2』(00)にも、イーサンが愛する者を救うために戦うという似たパターンはあったが、本作『M:i:III』では、事情を何も知らない“愛妻”を救うという設定なので共感の引かれ具合も違ってくる。言い換えれば、本作でのイーサンの奔走はエモい、のだ。
『ミッション:インポッシブル3』(c)Photofest / Getty Images
肝心のアクションにしても決して地味ではない。上海の高層ビルの屋根を滑り降りてのダイブは、これまでのトムのスタントの中でも危険度の高いものだ。また、橋の上で武装ヘリに応戦するシークエンスでは、爆風に吹き飛ばされて背中から車に激突する場面があるが、これも実際にトムが背中を強打したカットが使われている。彼が苦痛に顔を歪めるのは、必ずしも演技とはいえないのだ。
これほどまでにトムが入れ込んだ『M:i:III』が、なぜアメリカで興行的に振るわなかったのか?その大きな理由は、彼自身にあった。常にハリウッドの最前線で活動していたイメージが強いトムだが、この時期ばかりは猛烈な逆風にさらされていたのだ。