2025.07.02
華やかなキャリアの中で突然生じたトムの黒歴史
『M:i:III』公開の前年、2005年は、それまで映画スターとして第一線で活躍してきたトムにとって、ある意味、“つまずき”の年となった。これを象徴するもっとも有名な事件は、公開直前の主演作『宇宙戦争』の宣伝のために全米の人気トーク番組「オプラ・ウィンフリー・ショー」に出演した際の振る舞い。交際を始めたばかりのケイティ・ホームズへの熱愛を興奮状態で語り、カウチの上で飛び跳ねるなどの行動は、クールな映画スターの姿とはかけ離れており、全米の多くの視聴者には“奇行”と映ってしまった。
さらにトムは、産後うつ病に悩んでいた女優のブルック・シールズが、抗うつ剤を使用したことを別のテレビ番組を通じて非難。薬物依存は彼のポリシーに反していたからだが、これに精神医や、産後うつの経験のある女性たちは猛反発した。もちろんシールズ自身も反論。一般的には、これによってトムは当時、女性ファンの支持を失ったと言われている。余談だが、トムの俳優デビュー作は、シールズ主演の『エンドレス・ラブ』(81)である。
『ミッション:インポッシブル3』(c)Photofest / Getty Images
トムの薬物治療への嫌悪の背景にあるのはサイエントロジー信仰で、この宗教では精神医学に薬物を持ち込むことに批判的とされている。また、この時期の彼は、それまで控えていたサイエントロジー信者であることを堂々と公言するようになっていた。しかし、アメリカではサイエントロジーをカルトと見なす人々は決して少なくない。いうまでもなく信仰は個人の自由だが、全米一のムービースターが、それを口にするのはリスクが大きすぎた。
この2005年の出来事は、それまで14年に渡ってトムのイメージを作り上げてきたパブリシスト、パット・キングズリーを解雇したことと無縁ではない。1990年代のトムの、映画スターとしての華やかで好感度の高いイメージは、キングズリーによってかたち作られたものだった。彼と袂を分かったことで、トムのタガが外れてしまったのだろうか。好意的に解釈すれば、トムは自分に正直に生き、それを人々に認めて欲しかったのかもしれない。