2025.07.02
シリーズの流れを変えたターニングポイント
その結果、1億5千万ドルで製作された『M:i:III』は、全米興収だけでは製作費を回収できない、トムの主演作としては異例の事態を引き起こしてしまう。これを受けてシリーズの配給元パラマウントは、14年におよぶトムとの契約を打ち切る。数年後、シリーズ4作目のために同社はトムと再契約を結ぶが、もしもこれがヒットしなければ、第4作の出演者のひとりで、『ハート・ロッカー』(09)で上り調子にあるジェレミー・レナーを主演に据えてシリーズを続行することも視野に入れていた。
といった具合に、不遇の『M:i:III』ではあったが、レガシーも残している。たとえば、J・J・エイブラムスの監督起用。当時、エイブラムスはTVシリーズ「エイリアス」(01〜06)「LOST」(04〜10)で注目されてはいたが、長編映画の演出はこれが初めて。映画界では無名に近いが、彼の人間ドラマの演出の手腕を買ったトムの眼力は、長いスパンで見れば正しかった。この後、パラマウントで『クローバーフィールド/HAKAISHA』(08)の製作を務めてスマッシュヒットを放ち、さらに監督作『スター・トレック』(09)が特大ヒットとなったことで、エイブラムスはハリウッドの気鋭ヒットメーカーとなる。それがトムのおかげであることを、彼はよく理解していた。シリーズ4作目『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(11)で、エイブラムスは原案と製作を兼任して恩返しをする。結果、同作は製作費以上の全米興収を上げ、トムの復活にひと役買うことになった。
『ミッション:インポッシブル3』(c)Photofest / Getty Images
何よりのレガシーは、本作から始まった人間ドラマ重視の製作方針。ここまでの3作は、同じイーサン・ハントが主人公とはいえ、ストーリー上のつながりはなく、まったく別の作品として成立していた。2作目のジョン・ウー、3作目のエイブラムスを口説く際、トムは「過去のシリーズは関係ない、あなたが撮った『ミッション:インポッシブル』を観たい」と言って口説き落としたとか。しかし、4&6作目ではジュリアが再登場してシリーズ内の関連が色濃くなる。今やイーサンのミッションに欠かせないパートナーであるサイモン・ペッグ扮するベンジーが初登場したのも、この3作目だ。そして監督をクリストファー・マッカリーに固定した5作目以降は、ドラマが完全に“続きもの”として機能し続けている。『M:i:III』はシリーズを存続させ、『ファイナル・レコニング』に発展させるための、きわめて重要な分岐点でもあったのだ。
文:相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
(c)Photofest / Getty Images