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『ストレンジ・ダーリン』誰かにネタバレされる前に観てほしい。時系列を解体した、鮮烈かつ新鮮な”非線形スリラー”
2025.07.15
時間の流れや文脈を解体する
本作は6章形式とそれに続くエピローグによって構成されている。が、順番通りに語られると思ったら大間違い。観客のはやる気持ちを弄ぶかのように、時間軸を行き来する。この手法に多くの観客は「タランティーノのやり口」を頭によぎらせるだろう。この30年ばかり、いわゆる『パルプ・フィクション』(94)的な映画は数多く量産されてきた。本作もきっとあの二番煎じに過ぎないのだろうと。
しかし『ストレンジ・ダーリン』を観れば、これがいかに巧妙に仕組まれた構成なのがじわじわと沁みていく。物真似でもなければ、後からいたずらに順番を入れ替えたわけでもない。最初にモルナー監督が着想した時点でこの物語はすでに時系列ではなく、本作は思いついた通りの順番で、そのまま紡がれているというから驚きだ。
これはいわば、6章に及ぶ時間の流れや文脈を解体した異色の企て。この少々強引な語り口のアイディアをブレずに貫き通した勇気と決断力、それによって得られたインパクトは高く称賛されて然るべきである。
『ストレンジ・ダーリン』(C)2024 Miramax Distribution Services, LLC. ALL rights reserved.
ジョヴァンニ・リビシという存在
果たしてこの男女の逃走劇がいかなる結末を迎えるのか。もうこれ以上踏み込むとうっかり楽しみを奪うことになりかねないので、控える。代わりにクレジットで私が思わず「あっ!」と声を出さずにいられなかった件について触れておく。それは本作の撮影監督を担ったジョヴァンニ・リビシのことだ。
リビシといえば、『プライベート・ライアン』(98)や『60セカンズ』(00)『アバター』(09)などのハリウッド大作で存在感を見せた、あの目つきの印象的な個性派俳優。近年、映画で彼の名を見かける機会はかなり減った。が、その間、彼は小さな制作会社を経営し、ショートフィルムやCM、ミュージックビデオの制作、監督、撮影などを手掛けていたらしい。
そんなリビシとモルナー監督は共に35ミリフィルムをこよなく愛する仲間で、とある業界セレモニーで同席したのをきっかけに、互いの素性をまだほとんど知らぬまま、ただ好きな映画の話題だけで頻繁にメールしあって急速に仲を深めていったという。
自ずと築かれた信頼関係ゆえに、モルナーが『ストレンジ・ダーリン』の脚本を書き上げた際にもいち早くリビシにフィードバックを求めた。その結果、すぐさま本作のオリジナリティに魅了されたリビシから「このプロジェクトにぜひ参加させてほしい!」との返事があり、二人は序盤から固いタッグを組んで制作に向けて走り出した。リビシは本作の出演者として顔を見せることは一度もないが(作品内で流れるラジオ番組の出演者として声だけ聞こえてくる)、この映画で記念すべき長編映画における撮影監督デビューを飾っている。