『ヒッチャー』あらすじ
その男に出会ったが最期、運命は恐怖へとひた走る。シカゴからサンディエゴへの砂漠地帯。陸送の仕事をしていたジム・ハルジーは、ある嵐の夜に1人のヒッチハイカーを車に乗せる。しかし、ジョン・ライダーと名乗るその男はハンドルを握るジムの喉にナイフを突きつけ「俺を止めてみろ」と脅し始める。ジョンは恐ろしい連続殺人鬼だったのだ。一瞬の隙を見て、何とか彼を車から突き落としたジムだったが、それは恐怖の始まりに過ぎなかった。何度でも執拗に襲いくるジョン・ライダー。警察や協力者でウェイトレスのナッシュを巻き込んで事態は悪化していく……。
Index
ドアーズの名曲からインスパイアされた血と暴力の物語
テキサス砂漠のハイウェイで、ある青年が一人のヒッチハイカーを拾ったことから、終わらない悪夢が始まる…。
1986年に公開された『ヒッチャー』は、アメリカが産み落とした異形の映画のひとつである。約600万ドルの予算に対して興行収入は約584万ドルだから、商業的には赤字だ。著名な映画評論家ロジャー・イーバートは、まさかの「星ゼロ」の大酷評。にも関わらず、現在に至るまで『ヒッチャー』は多くのシネマ・フリークたちの心を掴み、痺れさせ、虜にした。
『ヒッチャー』予告
クリストファー・ノーランは、ルトガー・ハウアー演じる殺人鬼ジョン・ライダーの演技を「渾身のサイコパフォーマンスだ」と激賞。J・J・エイブラムスは、『10 クローバーフィールド・レーン』(16)が『ヒッチャー』の影響下にあることを公言。スタンリー・キューブリックは、この映画がいかに素晴らしいかをスタッフに吹聴して回ったという。
この不条理ロードスリラーの脚本を書いたのは、エリック・レッド。まだ20歳そこそこだった彼は、ドアーズの『Riders on the Storm』を聴いて衝撃を受ける。1971年にリリースされたアルバム『L.A. Woman』のラストを飾るこのナンバー(そして、ジム・モリソンの人生最後の録音曲でもあった)の歌詞は、「路上の一人の殺人鬼」をクルマに乗せると「素敵な家族が死んでしまう」という不穏極まりないシロモノ。エリック・レッドの脳内に、「嵐のライダー=嵐のなか現れる殺人鬼ジョン・ライダー」という天啓が閃く。彼は意気軒昂にシナリオに書き上げ、映画スタジオに送りつけた。
ドアーズ『Riders on the Storm』
シナリオを受け取った20世紀フォックスの幹部たちは、困惑するしかなかった。あまりにも血と暴力に彩られた物語だったからだ。彼らはこの作品をサスペンス映画というよりも、"straight-out horror movie"(直球ど真ん中なホラー)と捉えていたという。最終的に予算の問題で、20世紀フォックスはこのプロジェクトを却下。ユニバーサル・ピクチャーズやワーナー・ブラザーズの反応も同様だった。「ヒロインがバラバラに引き裂かれる映画なんて…」という明らかな拒否反応を示す者もいた(そりゃそうだろう)。
映画化に名乗りをあげたのは、1982年にコロンビア映画の子会社として設立されたトライスター・ピクチャーズ。ロバート・ハーモンを監督として招聘し、『ヒッチャー』プロジェクトが始動する。