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『ストレンジ・ダーリン』誰かにネタバレされる前に観てほしい。時系列を解体した、鮮烈かつ新鮮な”非線形スリラー”

(C)2024 Miramax Distribution Services, LLC. ALL rights reserved.

『ストレンジ・ダーリン』誰かにネタバレされる前に観てほしい。時系列を解体した、鮮烈かつ新鮮な”非線形スリラー”

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35ミリフィルム撮影がもたらす磁力



 当然、撮影は35ミリフィルムで敢行された。ただし、低予算スリラーゆえに湯水の如くフィルム代を捻出できるわけではない。また、撮影中の現場であれこれ何パターンも撮り方を試すことも不可能だ。そのため彼らは1年も前からデ・パルマ、リンチ、クローネンバーグ作品における広角レンズや色味についての研究を重ねた。その上で、「この場面ではどの撮影方法がベストか」を試行錯誤しながら撮影プランを策定、計画や準備を徹底した上で、チーム全体が効率よく撮影を進めていけるよう努めたという。


 そうやって得られた効果のほどは絶大だ。何よりも鮮烈さというか、映像の持つインパクト、訴えかけてくる重みが異なる。時として70年代のアクションスリラーを思わせるようなギラリとした深い黒みがかった色使いが炸裂し、かと思えば、森林の中で白いタバコの煙が立ち昇る幻想的な場面の創出や、青みがかった暗闇の中で交わされる男女の会話劇も極めて印象的。



『ストレンジ・ダーリン』(C)2024 Miramax Distribution Services, LLC. ALL rights reserved.


 すなわち、本作は時系列や文脈が解体されながらも、一瞬一瞬には映像的な厚みが閃光の如くほとばしっている。それらが確かな羅針盤となり、我々は本作が指し示すままにいざなわれ、全ての目論見が判明したときからはもう、この映画のやることなすことに息を飲むばかりで、ただただ釘付けになってしまう。


 おそらく一度見終わると、全てを理解した上で改めてもう一度、「俯瞰」で観たくなるはず。そうやって我々はすっかり作品の共犯者として取り込まれていく。願わくば、いつかまた近いうちにモルナー&リビシをはじめ一味が再集結した映画を観てみたい。そう強く思わせる、とっておきの怪作にして快作と言えよう。


参考記事URL:

https://www.motionpictures.org/2024/08/giovanni-ribisi-on-shooting-jt-mollners-must-see-horror-strange-darling/

https://www.fangoria.com/strange-darling-interview/



文:牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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『ストレンジ・ダーリン』

絶賛上映中

配給:KADOKAWA

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