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『顔を捨てた男』変身の先に待つ地獄を描く、大胆不敵なスリラー ※注!ネタバレ含みます

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『顔を捨てた男』変身の先に待つ地獄を描く、大胆不敵なスリラー ※注!ネタバレ含みます

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現実と虚構の交錯



 エドワード役のセバスチャン・スタンは、近年“変身する男”を好んで演じている。『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(14)や『サンダーボルツ*』(25)などのMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)シリーズに登場するバッキーは、ヒドラに捕えられて暗殺者ウィンター・ソルジャーへと改造され、『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』(24)のトランプは、気弱な青年からモンスターへと変貌を遂げた。そして『顔を捨てた男』では、デヴィッド・クローネンバーグのボディ・ホラーのようなタッチで古い顔を脱ぎ捨て、新しい自分を獲得する。


 かつての顔をマスクとして装着するセバスチャン・スタンは、“変身する男”を芝居として演じているが、オズワルドを演じるアダム・ピアソンは、神経線維腫症のため実際に障害を持っている(彼は新版『エレファント・マン』にジョゼフ・メリック役で主演を務める予定)。演じる俳優とその役柄が完全にシンクロしているのだ。「かつての自分を芝居として演じる」という映画のなかの現実と虚構の交錯が、リアル世界に侵食している。これもまた、おそらく策士アーロン・シンバーグ監督の計算だろう。



『顔を捨てた男』© 2023 FACES OFF RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.


 アーロン・シンバーグは、顔の美醜というテーマに長年強い関心を抱き続けてきた。彼自身が生まれつき口唇口蓋裂を患っていたことが、このテーマへの探求に拍車をかけたことは間違いない。「ある意味、セラピーとして作品を書いている」(*)とも彼は語っている。シンバーグのフィルモグラフィは、自分の居場所を求める旅路そのものといっていいのかもしれない。


 『顔を捨てた男』の原題は、『A Different Man』。『エレファント・マン』の原題『The Elephant Man』が特定のものを示す「The」を冠詞に使っているのに対して、『A Different Man』は不特定のものを示す「A」が使われている。これは、主人公エドワードが単なる一人の個人ではなく、どこにでもいる誰か、すなわち我々自身の姿を映し出していることを意味している。


 美醜をモチーフにした、アーロン・シンバーグのアイデンティティを追求する旅は、観客を巻き込む臨床実験映画となった。変身の先に待つ地獄を描く、大胆不敵なスリラー『顔を捨てた男』は、我々の倫理観・道徳観を大きく揺さぶり、挑発する。


(*)https://filmmakermagazine.com/127267-interview-aaron-schimberg-a-different-man/



文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。




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作品情報を見る



『顔を捨てた男』

ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開中

配給:ハピネットファントム・スタジオ

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