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『サタンがおまえを待っている』サタニック・パニックが映し出す現代社会の病理

© 666 Films Inc.

『サタンがおまえを待っている』サタニック・パニックが映し出す現代社会の病理

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陰謀論が生まれる共通のメカニズム



 本作の監督を務めているのは、スティーブ・J・アダムズとショーン・ホーラー。2人はカナダ出身のフィルムメーカーで、コンビで様々なドキュメンタリー作品を手掛けてきた。彼らがこの作品のリサーチをしていたとき、アメリカで吹き荒れていた陰謀論がQアノンとピザゲートである。


 Qアノンは、匿名掲示板「4chan」に「Q」と名乗る人物が投稿した内容が元になっている。この人物はアメリカ政府の最高機密レベル(Qクリアランス)にアクセスできると自称し、ディープステート(闇の政府)が世界を操っていると主張。政治家、ハリウッドスター、富豪などのエリート層は児童人身売買や儀式的虐待に加担しており、ドナルド・トランプはそれらと戦う救世主だとした。


 一方ピザゲートは、ワシントンD.C.のピザ店「Comet Ping Pong」が、アメリカの民主党幹部(特にヒラリー・クリントン陣営)が関与する児童人身売買・性的虐待組織の拠点になっている、というもの。クリントン陣営のジョン・ポデスタの私的メールが公開され、その中の「ピザ」という単語を一部のネットユーザーが暗号的意味を持つと解釈。右派系フェイクニュースサイトやインフルエンサーが引用することで、拡散に拍車がかかった。



『サタンがおまえを待っている』© 666 Films Inc.


 「これ(サタニック・パニック)は80年代から90年代にかけてのほんの一瞬の出来事だが、今日のQアノンやピザゲートにも繋がっているし、このようなことは歴史上何度も繰り返されてきた。これがどんなに周期的なことであっても、私たちは立ち上がって、これは真実ではないと言う責任がある」(*1)とスティーブ・J・アダムズは語る。


 ①出発点は曖昧な情報であること=科学的検証を経ていない個人的証言、匿名人物による決めつけ。②暗号や兆候の過剰解釈=見えない手がかりを読み取ろうとするゲーム的行為。③メディア構造の影響=テレビ報道・週刊誌・トーク番組、SNS・YouTube・匿名掲示板における拡散。確かに時代は違えど、かつての社会現象と現代の陰謀論には、いくつもの共通点がある。


 映画に登場するポッドキャスト配信者サラ・マーシャルも、「今の世界の存り様にも影響してますし、この作品をひもとけば、今の社会を解き明かす手がかりになる」と語っている。『サタンがおまえを待っている』は過去の騒動を掘り起こすドキュメンタリーではなく、現代の社会問題に警鐘を鳴らす、極めてアクチュアルな作品なのだ。




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