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『サタンがおまえを待っている』サタニック・パニックが映し出す現代社会の病理

© 666 Films Inc.

『サタンがおまえを待っている』サタニック・パニックが映し出す現代社会の病理

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信じたいものだけを信じる



 本作の原題は「Satan Wants You」。Youと呼びかけるのはホラー映画の常套手法で、ポスターや予告編で視覚的に強い印象を与える。『エイリアン』(79)のキャッチコピーは「In Space No One Can Hear You Scream(宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない)」だったし、『ラストサマー』(97)の原題は「I Know What You Did Last Summer(去年の夏、あなたが何をしたかを知っている)」だった。


 これは非常に巧みなタイトルだ。現代の視点から見れば、「Satan Wants You」は当時の恐怖を再現していると同時に、それが虚構に基づいていたという皮肉も帯びている。そしてまた、サタンはキリスト教文化圏における悪の象徴であると同時に、誤情報・集団ヒステリー・メディアの煽動・偏見・恐怖が結晶化した象徴とも読み取れる。


 ソーシャルメディア時代において、肥大化した偏見としてのサタンは、ますます強大になり、ますます存在感を強めている。もはや本来の意味としての悪魔以上に。ショーン・ホーラー監督は、「本当にすごい陰謀の特徴は、証拠の欠如が証拠になるということだ。サタニック・パニックの時もそうだったし、ピザゲートやQアノンの時もそうだった。それはとても人間的で、とても魅力的ともいえる」(*2)と語っている。



『サタンがおまえを待っている』© 666 Films Inc.


 「多くの人たちは、見たいと欲する現実しか見ていない」ーーーこれは、古代ローマの政治家ユリウス・カエサルの言葉だ。今から2000年以上も前の格言だが、現代社会においてこの言葉はより一層大きな意味を持つ。確かに我々は、信じたいものだけを信じる。自分の信念や価値観を裏付ける情報を積極的に受け入れ、反する情報を無視したり否定したりする。


 ソーシャルメディアの普及により、人々は自分が見たい、信じたい情報に囲まれやすくなった。アルゴリズムが個人の興味関心に合わせて情報をフィルタリングするため、客観的な事実から遠ざかるエコーチェンバーやフィルターバブルといった現象が起こっている。


 「サタンよ、退け」。聖書のマタイによる福音書4章10節には、サタンから3つの誘惑を受けたイエス・キリストが、神の権威と旧約聖書の引用によって悪魔に打ち勝ったエピソードが記されている。だが、現代社会に生まれた新しい悪魔に対して、我々はどのように打ち勝てば良いのだろう? このドキュメンタリー映画が問いかけるものは、とてつもなく大きい。


(*1)https://www.capitaldaily.ca/news/satan-wants-you-directors-conspiracy-that-shook-victoria-world

(*2)https://www.eyeforfilm.co.uk/feature/2023-08-09-interview-with-steve-j-adams-and-sean-horlor-about-satan-wants-you-feature-story-by-jennie-kermode



文:竹島ルイ

映画・音楽・TVを主戦場とする、ポップカルチャー系ライター。WEBマガジン「POP MASTER」(http://popmaster.jp/)主宰。




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作品情報を見る



『サタンがおまえを待っている』

新宿シネマカリテ ヒューマントラストシネマ渋谷 他全国公開中

提供:キングレコード 配給:ポニーキャニオン配給

© 666 Films Inc.

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